SSS

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beyond後、トーリ捏造。
………いつも捏造…。
ごめんなさい…(´・ω・`)





名前を呼ばれた気がしてまぶたを開くと辺りは薄暗かった。
今何時だろう、やらないといけない事が山積みなのに。
まぶたが重い。

「あ、紫苑委員おはようございます」
「……トーリ…」
「あんまりぐっすり寝てたんで起こしませんでした。お茶でも入れましょうか」
「…コーヒーが良いな」
「コーヒーですね、わかりました」

もたれていた椅子から身体を起こす。
それは確かに他の椅子に比べたら上等な質の物ではあるが所詮は椅子であり睡眠に適した物ではないので節々が痛む。
まるで錆びて動かなくなったぜんまい仕掛けのおもちゃになった気分だ。
身体の血を巡らす為に一度伸びをするといくらか楽になる気がする。
そうこうしているとちゃっかり自分の分の紅茶もいれたトーリが戻ってきた。

「紫苑委員はお砂糖いくついれますか?」
「あ、砂糖は良いや。ミルクくれる?」
「どうぞ」
「ありがとう」

トーリから受け取ったミルクをコーヒーに入れて混ぜる。
黒かったコーヒーが白いミルクと混ざり渦を作る。

「紫苑委員は甘党なイメージがありました」
「甘いものも好きだよ」
「でもコーヒーは砂糖入れないんですね」
「そうだね、ミルクがたっぷり入ったコーヒーが好きなんだ」
「わかりました覚えておきます」

生真面目な反応に薄く笑ってコーヒーを一口飲み下す。
程好い温さの液体が胃に下る感覚がした。

「最近働き詰めじゃありませんか?紫苑委員が家に帰っている所を久しく見てませんよ」
「5日前の火曜日に帰ったよ」
「じゃあ、もう6日です。今日は日曜日ですから。祝日ですよ、祝日」

2回も言われてしまった。
土曜日の内に仕事を片付けてしまおうとしたのにうっかり居眠りをしたら日付を越えてしまっていたらしい。

「あれ?じゃあ何でこんなに暗いんだ?」
「嵐が来るそうなんです。だから太陽の光が無くて暗いんですよ」
「あぁ…なるほど」

立ち上がり執務室にかけられたカーテンを少しだけ引くと空は一面に厚い雲がかかっている。
よく見ると風も強いらしく木々の葉が大きく揺れていた。

「トーリは何でわざわざ休みの、しかも嵐が来そうな中来たの?」
「自分は持ち帰った仕事の資料が足りなかったから来たんです。そしたら紫苑委員がいてびっくりしましたよ」
「ぼくもびっくりしたよ」
「でも仕事は終わってた様なので終わって緊張の糸が切れたんでしょうね」

最後の方は朦朧としながら端末を打ち込んでいたのではっきりとは覚えてないがトーリがそう言うからそうなのだろう。
人事の処理は未だに問題が多くて自分がやるしかなく少々手こずってしまったがなんとか間に合いそうだ。
未だいる不穏分子をゆっくりと少しずつ減らしていくのはなかなか気を使う作業だったが今度の異動でずいぶんと動かしやすくなるだろう。
そうなる様に水面下でずっと根を張っていた甲斐があった。

「という訳でこれを飲んだら紫苑委員も一度帰りましょう、後数時間もしない内にここは暴風域になりますよ」
「うん、そうだね」
「まったく…嵐なんてろくな物を運びませんよ。この後でまたやれ土砂崩れがとか川が氾濫したとかの仕事が増えるんですから」

風が、強くなってきた。
ガラスに仕切られた外から微かに風の吹く音がする。
嵐がやってくる。
君がやってきたあの時と同じように。

「でも、ぼくは嵐が好きなんだ」
「珍しいですね」
「そう?嵐って何も悪い事ばっかじゃないんだよ」
「例えば?」
「人生が百八十度変わる出会い」
「今や救世主のあなたの人生が百八十度変わったらそれは没落じゃないですか」

トーリはやっぱり生真面目な顔で言う。
彼はずいぶんと自分の事を高くかっていると思う。
内心、苦笑しか浮かばないのだが。
前の時も多くの人から落ちこぼれと評価を下されたが自分は一度もそうとは思わなかった。

「視点を変えると意外とそうでもないんだよ」
「経験談ですか?気になりますね」
「反面教師だよ、むしろ」

カップに残ったコーヒーを飲み込む。
嵐が来る。
あの時の様に。
嵐が来る。
ネズミ、来い。
ぼくはここで待っている。


END


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