SSS

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学パロ ネズ紫で美術の授業


はい、それじゃあ前の席の人の顔を描きましょう。
美術の教師にそう言われて顔を上げれば学年屈指の優等生様と目が合った。
が、一瞬にして優等生様は下を向いてしまう。
‥何となくハズレクジを引いた気分だ。
同じクラスとは言え話した事なんて一度も無いのにひたすら無言でじっと観察されるのかと思うと気まずくてしょうがない。
それはおそらく相手にも言える事なのだろうが。

「よろしく‥」

蚊の鳴くような小さな声に会釈で返す。
美術の授業終了まで後36分。
嘆息。
先はなかなかに長そうだ。


椅子を向かい合わせにして向き合う。
こうして真っ正面から見る事なんて無かったから何だか新鮮な気分だ。
透明に近い白髪。
華奢な身体つき。
俯いて前髪に隠れた表情。
そろそろ暑くなってくる時期だというのにワイシャツのボタンはきっちりと一番上まで止めてその上ぴしりとネクタイまでしている。
髪色以外はありがちな地味ながり勉野郎だな。
白髪なんて珍しくて最初は目を引いたが入学して3ヶ月してだいぶ慣れた。


「おい、下を向かれちゃ描けないんだけど。これ似顔絵を描かなくちゃなんないんだから」
「あ‥ごめ‥」

俯いて隠れていた面がゆっくりと挙げられる。
さっきは一瞬だったが今度はしっかりと目が合う。

へぇ‥こいつってこんな顔をしていたのか。
下ばかり向いてたからもっと陰気なのを考えていたけれど思っていたよりもずっと整った造作をしている。
でもやっぱり白い。
肌も髪も。
最終的に絵に色をつけなくてはならないからきっと相当の量の白い絵の具を使うんではないだろうか。

まじまじと見ていたら相手が恥ずかし気に目を伏せた。

「気持ち悪いよね‥」
「は?」

いきなりの言葉に何の事かと声を上げる。

「ぼくの髪」
「‥珍しくはあるけど」
「遺伝子疾患でメラニンの生成に異常があってこんな色なんだ」
「まぁ、あんたのキャラからして脱色とかじゃないだろうな」
「気持ち悪いよね」

先程の言葉を繰り返しまた下を向いてしまった。
そうか、きっとこいつはずっとその特殊な髪色を気持ち悪いと言われ続けてきたんだ。
だから臆病になってずっと下ばかりを向いてしまっていたのか。

「おれは…」



優等生の肩がぴくりと揺れる。
そして投げかけられる言葉に恐怖しその身体をより小さくした。

「おれはあんたのその髪色綺麗だと思う」
「え?」

驚きに満ちた顔が真っ直ぐに自分を見てくる。

「おれはあんたがとても綺麗に見えるよ」

ゆっくりと手を伸ばして髪に触れれば絹の様に柔らかかった。

「ほら、こんなにも」

優等生の頬に朱が散った。
はっ、と我に返ると物凄く恥ずかしい事をした気がしたが今更に引けない。

「えっと‥」

優等生が嬉しそうに微笑む。

「今まで綺麗なんて言ってくれる人いなかったから‥凄く嬉しい。ありがとう。君も、凄く綺麗だね」
「………」

今の一言で確定した。
おれは物凄く恥ずかしい事をした。
気なんかじゃない、した。
綺麗とか何を口走ったおれ。
言われてあんなに威力のある言葉を言ったのかおれ。
全く、こっちまで恥ずかしくて顔が熱くなる。


微妙な空気に気まずさを感じ始めた時に授業終了のチャイムが鳴った。
最初は時間の長さに辟易していたのにあっとゆうまに過ぎてしまっていたようだ。

「あ‥」
「しまった」

そして二人して絵がほとんど進んでいない事に気づいた。


「おれまだのっぺらぼうな状態なんだけど」
「ぼくなんて顔の輪郭位しかとれてないや…」
「………」
「………」

おかしくてまた二人して吹き出してしまった。

「なぁ、良かったら放課後居残ってやらないか?」

「うん。勿論良いよ」


おれの提案に優等生の紫苑は快諾する。



どうやらこの課題が終わる頃に新しい友人ができそうだ。

END




え、友達関係じゃ終わらないよね?←

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