SSS
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01の学パロ設定。
「ね‥ネズミ、お願いだから来ないで‥」
ほんの数週間前にクラスメイトのネズミという男と友人になった。
今まで交流がなかった彼だが美術の授業がきっかけになり今となっては一緒にお昼を食べる仲に至る。
そんな彼と良好な友人関係を築いていたと思っていたのに、のに‥。
「こーら、紫苑逃げるんじゃない」
「ひっ!」
腕を強く捕まれた。
背中は壁だし。
ネズミのね手が身体を囲う様にして退路を塞ぐ。
逃げられない。
絶体絶命ぼく今ピンチ。
彼の右手に持たれている物の意味を察し、思わず涙が滲む。
「こら、別にあんたを傷つけようって訳じゃないんだ。だからそんな泣きそうな顔をするな」
「君がしようとする事を止めてくれたらぼくは一番傷つかなくて済むんだけど」
「それは駄目」
にべもない。
あぁ、どうしてこんな事になってしまったんだ。
事の始まりは余りに些細な日常のひとこまだった。
ネズミにわからない所があるから勉強を教えて欲しいと言われたのがきっかけ。
放課後の誰もいない教室に一つの机で向かい合わせに座り、彼がわからないと言った所をぼくなりに説明していたのだが、急に動いていたシャーペンが止まりいぶかしむとネズミが一言言ったのだ。
鬱陶しくないか?と。
最初は何の事を言われたのかわからなかったがどうやら髪の毛の事を言われているのだと気がついた。
確かに、最近は人と目をあわさない為にも遮る様に前髪を伸ばしていたので今ではずいぶんと長くなってしまっている。
「あぁ‥確かに少し長いよね」
とはいえ人前に顔を晒すのが怖いぼくはむしろこのままで良いと考えていた。
「ふーん‥じゃあさ―‥」
がさがさと筆箱を漁り何かを探すネズミ。
「――切ろうぜ、髪」
そして目当ての物であるハサミを探し当て、はそれはそれは妖艶に微笑んだ。
そうして事は冒頭にモドル。
あり得ない、何でわざわざ人前に顔を晒さなくちゃいけないのだ。
冗談じゃない。
「い、嫌だ!切らなくて良い!むしろ切りたく無い!!」
世界が見えない位が良い。
そうじゃなきゃ、また。
また―‥。
「‥人を見るのは怖いか紫苑」
「ッ―!?」
心地よい低音が空気を震わす。
「あんたの事を異端と見る目が恐ろしいのか」
あくまで穏やかに語りかける。
「けどな、あんたが目を逸らした人の中にその外見ではなくあんた“自身”を見てくれる奴がいるんだ」
その声音に胸が溶かされる。
目頭が痛くて、熱い。
「だから、あんたから先に逃げちゃ駄目なんだ。胸を張って、前をしっかり見てみろよ」
“あんたが思うよりもずっと世界は綺麗な所だから”
――そうか、確かに世界は綺麗だった。
こんなにも近くでぼくの閉じた世界を開けてくれた人が居たのだから。
前髪という殻を切り捨てたぼくに笑って見せたネズミが何よりも綺麗に見えた。
「おはよー」
「お‥おはよう‥」
「あれ?紫苑君髪切ったんだ!!」
「あ、ぅん‥」
「へぇ!良く似合ってるね!!」
「あ、ありがとう」
人の笑顔って、こんなにも優しいんだとネズミはぼくに教えてくれた。
END