SSS

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だいちゃんの絵にたぎった結果がこれだよ。
遊郭パロ。


店にいる人やお客から「ズレている」と言われる事がままある。
ぼくはここに来るまで色々な事を知らなかった。
同じ年頃の子どもが興じる遊び。
店に咲く花の名前。
見るもの触るもの食べるもの全てがぼくには物珍しかった。
この奇妙な外見、きっと世間から隔離されていたのだろうと頷かれてしまった。
この店にいる人間もじゃあ奇妙な外見なぼくから距離を置くのだろうかと思ったが、しかし予想に反して店の人はそんなぼくを邪険に扱わなかった。
ここにいるのは皆訳ありだと着崩した女の人がぼくの頭を撫でて微笑んだ。

「ここにはそんなあんたを愛してくれる人が来るはずだから」

と言ってくれたあの人はその後すぐに身請けをされていなくなった。

あい。
アイ
愛。
良くわからない。

違う、知っていた。
ぼくは愛していた。
けれど愛されていなかった。

たまに何の拍子にか昔の事を思い出す。
そして思い出して胸が締め付けられる。


ぼくを愛してくれる人なんて本当にいるんだろうか。


「そんな艶っぽい顔をしているのもそそられるな」


不意に頭上から声した。
その良く知った声に顔をあげればやはりネズミで、彼は月を背に窓枠から優雅に部屋へと入って来た。

「君はまたそんな所から‥」
「こういう会瀬もまた刺激的だろう」
「見つかったら叱られるよ」
「あぁ‥おれとあんたを取り巻く環境はいつも障害ばかりだ」
「そんな、お金を払えばいつだって会えるよ」

――だってぼくは商品だから。

そう言おうとしたら思いきり唇を摘ままれた。
勢いで変な声が出る。
「うむん」全部に濁音がついた感じの。

「今日の姫はご機嫌斜めらしいな」
「……」

手を離してくれないと否定も肯定も出来ないんだけど。
後、姫ではないだろう。

「まぁ良い。今日はそんなつもりで来たんじゃなく、ほら」

すっ、と唇を摘まんでいる反対の手が何かを差し出して来た。


「……?」

差し出された物が部屋に置かれた火に照されて淡くうつる。

「‥ふむふぁ?」

これは?って聞きたいんだよ、本当は。
いい加減離とネズミを睨めばおかしそうに笑われた。
ようやく離してもらえて口が自由になる。

「今宵は姫にこれを届けに来たんだ」

差し出されたのは淡い紫の花だった。

「これ‥」
「そ、“紫苑”の花。あんたと同じ名前だな」

言って一輪髪飾りの様に差し込まれる。
ふわりと香った花の香りに胸が疼く。

“紫苑、あなたは花の名前なの”

「…これ‥母さんが好きな花だったんだ」

“私の大好きな花よ”

“大好きなあなただから、私の好きな花の名前をつけたの”

「あんたは?」
「え?」
「あんたはその花好きか?」
「……」

手の中で揺れる花をじっと見つめる。

「あぁ‥」

忘れられない記憶がある。

「好きだよ」

自分に向けられたあの笑顔や言葉が。

“紫苑―‥”

“私は――‥”

例え偽りだったのだとしても。

「ありがとうね、ネズミ」
「今日のあんたは寂しそうな顔をしてるな」
「君が会いに来てくれなかったからだよ」
「くっ、あんたもずいぶん手練手管が上手くなって」


そんな可愛い事を言われたら引っかかってやるしかないとおどけてみせた。
ネズミの指が感触を楽しむ様に何度もぼくの髪をすく。

「おれも好きなんだ」
「何が?」
「“紫苑”」

真っ直ぐな瞳と目が合い思わず息が詰る。
顔が火照った様に熱を持つ。
花の事とはわかっていてもやはり照れくさいのだ。

「あんたもまだまだ経験不足ってな」

負けた。
たまの反撃もあっさりと打ち負かされてしまう。
あぁ、勝ち誇って笑うネズミが憎らしい。

頬に触れたネズミの手の冷たさが心地良くて、たまにはこんな風に慰められるのも悪くないと。
ぼくはふわりと頬を綻ばせた。

END






ごめんなさい、遊郭パロに提出してくれた絵が余りにも素敵過ぎて思わず‥。
本編をまだ出していないのにこぼれ話だけが増えてゆく。


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