SSS

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学パロだけど01とはまた違う世界観。 未成年の青さみたいな中2炸裂←




電車に乗った。

今日は平日で、何より自分は学生だから。
箱から溢れる程の人と人と人と人と人に挟まれて息の詰まる様な思いで学校へ向かう。
足に誰かの傘が、太ももに誰かの鞄が、腰に誰かの腕が、肩に誰かの肩が、電車が揺れる度に触れる。
その事に若干の抵抗感と大部分の諦めをもって受け入れる。
早く着かないかなぁ。
そればかりを強く願いながら。


待ち遠しかった自分が目的とする駅に到着した。
波の様に人が動く。
自分と同じ学校へ向かう学生だろう、同じ色の同じ校章を付けた人は我先にと箱の外へと飛び出して行く。
自分もそれにならって出ようとした時にふと、ある少年に目がいった。
自分と同じ制服に身を包む少年は降りる駅であるはずなのに微動だにせずその場に立ち続けているのだ。
珍しい灰色の瞳を真っ直ぐに外に向け、駅名の書かれた看板を見ているのにそれでも動かない。
自分には関係ないとほっておいて学校へ向かえば良いのに、その余りにも堂々と立つ彼にぼくは踏み出そうとしてた足を戻した。


それから3駅、4駅と過ぎて人もまばらになった頃に灰色の瞳の少年が外から今度はぼくを真っ直ぐに見据えた。

「あんた後1分で遅刻確定だぜ」


特に急いた風でも無くどこか面白がる様にそう言って来た。
突然話しかけてくるものだから面食らうが冷静に切りかえす。

「…それは、君も同じじゃないか」

って言うか、後1分とか言われても間に合う筈がない。
ぼくは完全に開き直っていた。
…ヤケとも言う。
相手は確かにそうだと笑ってじゃあと親指で空席を指した。

「どうせ遅刻確定なんだ。座らないか?」

どこまで?
言いかけた言葉を飲み込んでぼくは一つ、頷いた。



「あんた、A組の奴だろ」
「‥ぼくの事知ってるの?」
「新入生代表であんたが喋ってるのを見たから顔を知ってたんだ。因みにおれは1年E組」
「あぁ、西の方なんだ」

自分の学校は中央階段を挟んで東にAからC組、西にD、E組に別れている。
だから、と言うのかどうしても東西に別れたクラス同士余り交流が少ない。
人数も多いし同じ学年といえ彼と面識が無いのも納得出来る。

「そ、ネズミだ。あんたは?」
「ぼくは紫苑。よろしく」

何をよろしくするのかとも思ったがしかし他に何と言えば良いのかわからない。

「紫苑、あんた絶対に天然だろ」
「………」

否定はしないでおいた。



「時にネズミ」
「あ?」
「君は何であの駅で降りなかったんだ?自分が降りる駅ってわかってたんだろ」
「………」


じっとネズミを見ると少しだけ難しい表情して外を見上げた。
同じく空を仰ぐ。
今日の空はは曇りでどんよりとした灰色だ、傘を持っている人もそういえば何人かいた。

「逃げてみようかなって唐突に思ったんだよ」
「逃げる?」

何から?
誰かに追われでもしているのかときょろきょろと辺りを見回してもほとんど人がいなくなった車内で目立つ人間はいない。
いてもこちらを気にした様子も無いし‥。

「あんた本当に天然なんだな。人じゃない。‥いや、人もそうかもしれないけど全部からだよ」
「…ネズミ。何を言っているのか良くわからない」
「おれもまさか説明するとは思わなかった。理由なんかないんだよ、ただ“やりたいからやった”っていう衝動なんだ」

衝動、激情、言葉に出来ない感情の発露。
理屈じゃなくて。
きっと本能の様な。
例えば、大きな声で叫ぶ事の様に。

「電車に乗って、次はどこ駅〜どこ駅〜とかって聞きながらもっと遠くへ行きたいって思ったんだ。何がしたい事がある訳じゃないけどただ遠くへ行ってみたかった。すべてから逃れる様に」

そしたら何故かおまけがついて来たんだ、と指を向けてきた。
言うまでもなくおまけとはぼくの事だ。

「あんたこそ何で降りなかったんだよ」
「え‥っと‥」

今度はぼくが言葉に窮する。
何で、と聞かれても理由なんかない。
ただネズミが降りないのを見て自分も降りなかった。
まるで自分の目的地はここじゃないとでもいうネズミの姿に“何で自分はここで降りないといけないんだ?”と思ったら足が動かなかったのだ。
いや、動きたくなかった。

「……ぼくも‥逃げたかったのかな‥」

ぽつりと呟く。
別の場所に行ってみたかったんだと思う。
決められた場所に、決められた時間に繰り返し繰り返し行き続けるんじゃなくて新しい場所へ。
厭きていたのかもしれない、日常に。
ネズミはその日常を少しだけ曲げたきっかけだった。
だからぼくはここにいる。

「そうして2人仲良くサボりって事になった訳だ」
「つまり君は今日はもう学校に行く気が無いんだね」

「あんたは戻るか?」
「………いや」

サボる。
体調不良以外で学校を休んだ事の無い自分には新鮮な言葉だ。
いけない事をしているのに妙にすがすがしい。

「ぼくもサボる。ってかどこに行くのこれから」
「……さぁ」
「さぁって…」

確かに突発の無計画の行動だから仕方ないのかもしれないが。

「目的は“冒険”みたいな?」

ネズミの言葉に吹き出しそうになる。
高校生にもなって冒険なんてするとは思わなかった。
しかし存外悪くないじゃないか。

「何を探して?」

どんよりと沈んだ空を再び見上げる。

「幸せの青い鳥、なんて無理だからとりあえず青い空でも」
「……良いね」


遠くの空の灰色がかった雲の切れ間に、ほんの少しの青を見た気がした。


END







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