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日記ログ。ハロウィン話。
「君が仮装をするとしたら何が似合うだろう?」
ベッドに腰かけ本を読んでいたら床に座って同じく本を読んでいた紫苑がいきなりそんな事を言ってきた。
そんな突拍子も無い言葉におれは呆れ半分諦め半分の気持ちで本から顔をあげる。
「‥だから、どうしてあんたは前置きをすっ飛ばして本題から入るんだ」
意味がわからない。
いつもそうだ。
語彙が少ない訳ではないのに何でなんだろうか。
「あっ、ごめん。いや今日ってハロウィンじゃないかだからなんとなくネズミが仮装したら何が似合うかなって」
ハロウィン、か。
もともとは収穫感謝祭だった筈なのにいつからか仮装して「お菓子をくれなきゃ悪戯するぞ」の言葉でお菓子を貰う事になった行事だな。
勿論西ブロックにそんな微笑ましい行事なんてある筈も無いのだが。
「仮装か、何だろうな。あんたは‥ミイラ男とか?」
「……それってぼくがここに来たばっかの時に包帯でぐるぐる巻きだったからか?」
‥変な所が鋭いな。
なんとなく犬や猫の動物系も似合う気はするがイヌカシが既に犬だし。
「ネズミだったら…そうだな、吸血鬼とか似合うんじゃないか?」
紫苑がこちらを見上げながらそう言ってきた。
吸血鬼か。
清い物を恐れ他人の生き血を吸い闇に生きる。
光のもとにいられぬ穢れた身。
くっ、っと喉をならす。
なるほどなかなかに似合う気がする。
「へぇ、良いんじゃないか?」
膝に置いていた本を床に落とす。
最近は本が傷むから止めた方が良いと紫苑に言われているが知った事ではない。
「ネズミ‥?な、わっ!?」
紫苑の腕を掴みベッドの上へ乱暴に引き上げた。
いきなりの事にされるがままになった紫苑にかぶさる様に押さえつける。
「おれが吸血鬼だったらあんたはその犠牲者だな」
穢れた身は清い物を恐れ。
けれど愛してしまったから。
だから一滴さえ残さず。
食すのだろう。
きっと、こんな風に。
唇を寄せ首筋に舌を這わすとぴくりと紫苑の身体が動く。
けれどそれを拒絶する風はない。
むしろ自分の頭を抱えこまれる様にされた。
「ぼくは、」
少しだけ顔をあげると紫苑の真っ直ぐな瞳にあう。
「きっと食べられると知っていても君にぼくを捧げただろうね」
それが君の糧になるなら、と。
そう言って優しく優しく微笑んだ。
ああ、恐い。
きっとどんなに恐ろしい怪物がいても清い物の方がずっと何倍も恐ろしいのだ。
「なぁ、紫苑」
「うん?」
「treat or treat」
お菓子をくれなきゃ悪戯するぞ。
「えっ、でもぼくお菓子とか持ってないよ」
だったら。
お菓子はいらない。
紫苑をちょうだい。
END