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鬼を愛した男(前)
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◼︎◼︎紫苑は鬼だ。
日の光を恐れ、人の生き血を啜る彼を人々は吸血鬼と呼んだ。
けれども彼は悲しい鬼だ。
彼は人を食べない。
彼と暮らした4年の年月の中でほんの少しも、食事をとった所を見た事がなかった。
曰く、人を愛したのだと。

「ネズミ」

ベットの上にまるでバラの花びらの様に鮮血が散る。
それはおれが自ら腕を切りつけて溢れたものだった。
じくじくと痛む腕を目の前に座る鬼へ差し出す。

「食べろ。紫苑」
「だめ」
「食べろ」
「駄目だよ」
「頼むから‼︎」
「……ネズミ…」
「っ…死なないでくれ」

世界やあんた自身が、紫苑を許さないとしてもおれが紫苑の全てを赦すから。
おれがあんたに許された様に。

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