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□片思いの性
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端正な顔立ち。
聞く者を魅力する美声。
中性的だが、男らしさがあって格好良い。
目を奪われ。
耳を奪われ。
気持ちさえ奪われ。
(これって…初恋なのかな…)
未知の気持ちに狼狽えてしまう。
「何だよ?」
ネズミが読んでいた本から顔を上げて訝しそうに眉を寄せる。
目が合うのはネズミ独特の灰色の瞳。
まるで深い夜の明ける寸前の様な。
すべてを見通す澄んだ瞳は少しだけ困惑したように揺れた。
「さっきから人の事をジロジロと。腹減ったのか?」
「え?えーっと…」
そう、言われて時計を見た。
19時半。
確かに、時間的にお腹が減ってきた。
「まぁ…そんな所…」
誤魔化した言葉。
君への気持ちがまとまらないまま、とりあえず―…。
■■ ■■
繭糸の様な綺麗な白髪。
優しい顔立ち。
それが紫苑を中性的なものにしている。
穏やかな声。
でも不意に見せる意思の強さ。
その存在に。
心惹かれ。
目を惹かれ。
愛しさを感じる。
しかしそんな紫苑が先ほどからジッと自分を見ている。
(読みにくい…)
どころか内容が頭に入ってきやしない。
こんな読書妨害など初めてだ。
チラリと時計を盗み見る。
19時半。
(夕飯どきか…)
腹が減ったと無言の催促だろうか。
例え催促されても壁の中で食べていたものにははるかに劣るものではあるが。
「さっきから人の事をジロジロと、腹が減ったのか?」
本から顔をあげて相手を真っ直ぐに見据える。
「え?えーっと…」
てっきりそう思ったのだが。
紫苑は意外な事を言われたように目を丸くしている。
しかし、すぐにまぁ、そんな所と歯切れは悪いもののそう言われた。
曖昧な言葉。
そんな曖昧さに違和感を覚えつつ。
とりあえず―…。
□■ □■
『一緒にご飯を食べよう』なんて。
楽観的だろうか?
見たり、見られたりの晩御飯。
隠したり、隠しきれなかったりの恋心。
これも。
片思いの性なんだろう。
(なんてね)
2013.04.29 改