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不都合過ぎる世界で僕らは―。※
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この頃のネズミはどうしたと言うのだろうか。
素っ気ない行動や物言いは前からだけど最近は最早その域を越えていると思う。
話かければ忙しいとか、後にしてくれとかではぐらかされて。
ここ5日はまともに顔も見ていない。
自分と距離を置かれる。
つまりは―。

「避けられてる…?」 

一人ごちて首を傾げる。
何かしただろうか。
最近は大きな失敗をした覚えは無い筈だが。

「何だか寂しいな…」

ぽつりと呟いた言葉はすぐに空に霧散してしまった。

■■ ■■

太陽の輝きなぞ最初から無かったような闇に身を隠しながらネズミは自分と同居人の住まう家へと向かう。

(流石にもう、寝ているよな…)。

丑三つ時などとうに過ぎている。
最近はわざわざ遅くに帰って、早くに家を出て行く。
そうして紫苑に近づかない様にしている。
理由なんて簡単だ。
謎かけにもならない。
己の浅ましさだけが浮き彫りになるだけ。
自分は―。
紫苑を愛しく感じている。
友情でなく、同情でなく、もっと別の原始的な感情。
愛しく思い。
触れたいと思い。
抱きたいと思う。
自分の気持ちに気づいた時は愕然としたが吹っ切れると妙に納得出来た。
話は単純で明快だ。
ただ、その過程が不都合なだけで。
だからこそ最近は距離を置いて、自分を律して今のままであろうとした。
ふっと吐き出しそうなため息を何とか押し留めた瞬間。
引き裂かれる布の音と聞き覚えのある小さな悲鳴が聞こえた。

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