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□月夜
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らしくない。
最近のおれはその一言に尽きる。
一体、何だというのだろう。
ネズミは吐き出したいため息を我慢して読んでていた本をパタリと閉じた。
栞を挟むのを忘れたが、始めから読んでいない様な状態だったのだ、栞など無意味だろう。
壁に掛かっている時計を仰ぎ見てネズミはチッと舌打ちをした。
(遅い、な)
と思う。
時計の針が示す時刻は午後8時を過ぎた頃。
もうこんな時間だというのに同居人である白髪の天然坊っちゃんは未だに帰って来やしない。
確かに、普通の感覚ならばそこまで遅いと言われる時刻ではないが、ここは完璧に整備されたNo.6と違い『西ブロック』なのだ。
西ブロックの夜は早い。
陽が傾けば辺りは魑魅魍魎(幸い、ネズミはその類いのモノとの邂逅は経験した事は無いのだが)も喜んで出てくる様な暗闇へと変わる。
そして、その闇にのさばるのは正体不明な存在などで無く、冷血で狡猾で残虐な実体をもった人間だ。
だから自分は紫苑に暗くなる前に帰るように何度も言った。
それは言っているこっちが鬱陶しくなる位に。
だと言うのに。
(まだ、帰って来ないのかあの天然は!!)
自分の中でブチリと我慢という理性が切れた音がする。
紫苑は今日、イヌカシの所に犬洗いに行くと言っていた。
だから帰りは犬が護衛してくれるから大丈夫だろうとタカをくくった自分が愚かだった。
「くそっ!」
ネズミは荒々しく椅子から立って超繊維布を肩に巻く。
今度から紫苑に最低一匹は小ネズミを付けようとネズミは心に誓うのだった。