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君の側に。※
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□□ □□

ふと紫苑が目を覚ますといつも隣で寝ている筈のネズミが居なかった。

(ネズミ‥?)

ネズミが居ない。
何処に行ったんだろう。

(‥今、何時?)

寝起きで頭がクラクラとする。


地下であるここは常に薄暗く正確な時間をはかり知る事は出来ない。
紫苑は顔にかかる髪をかき上げて起き上がろうと上半身を起こした瞬間に腰に激痛がはしった。

「ぃ゛っ――!!!?」

余りの痛みに全身が総毛立ち、冷や汗が吹き出す。
結局、起こした上半身は再びベッドへと逆戻りとなる。

「っ〜〜…」


見事なまでに眠気が一気に吹き飛んでいった。
どう頑張ったって爽快とは言えない脳の起こし方だったけれど…。

(あぁ。そうだ、そういえば昨日―‥いや、もう今日か、な‥)


思い出した。
昨夜、自分はネズミと寝たんだ――。


寝る。
それは抱かれたという意。
もっと直接的に簡単言えばセックスをした。


熱を共有し。
圧倒的な快楽に身を委ねて。
互いが互いを貪って。
果てるまでそれを繰り返し。


自分は涙が出そうな程、それに充足を感じた。


「ふぅ‥」

紫苑はため息をついて仰向けのまま天井を見上げる。


ふと、服を着てる事に気がついた。
どうやら色々な後始末を含めて全てネズミがやってくれたらしい。


冷静になって考えると急に恥ずかしくなった。
昨夜自分がどんな事を口走り、どんな恥態をネズミに晒したかと思うと‥。

「はぁ〜‥」

身体が満足に動けば、もしかしたらベッドの上で手足をバタつかせて悶えていたかもしれない。


しかも昨日は―‥だったから。
いつも以上にネズミを求め、縋りついて。
ぼくは―‥。
ぼくは。

「う゛ぅぅ‥‥」
「何なんだあんたは」
「!!!?」

眉を寄せたネズミが隣の部屋から入って来た。

突然入って来て思わず肩が跳ねる。

「ネ、ネズミ」
「人の事見てそんな驚く事ないだろう。しかもさっきからうんうんうなって何なんだ」
「え!?聞いてたのか!!?」

そう言うとネズミは心外だという表情をつくった。


「聞いてたんじゃなくて聞こえたんだ。生憎ここはあの理想都市の様にどこもかしこも防音じゃないんでね」
「ごめん‥」
「いや、別に謝る程じゃないけど」

肩を竦めてネズがベッドの方へとやって来る。

「とりあえず朝飯作ったから」
「あ、ありがとう‥」
「いえいえ、礼には及びま

せんよ陛下。――で?」
「え?」
「朝飯。食うの?食わないの?」


食べたい。


のはやまやまなのだが‥。
「ネ、ネズミ‥」
「うん?」

ちょっと恥ずかしくて目を伏せる。

「腰が‥その、痛くて‥」

立てない。

と言外に言えばネズミはくすりと笑んで自分へと手を伸ばし――

「うわ!?ちょ、ネズミ!!!」

横抱き―いわゆる、お姫様だっこをしてきた。


「や、やめろよ!降ろして!!」

慌てて降りようとしてもネズミはニヤニヤ笑って降ろしてくれやしない。

「あんたが立って歩けないって言ったんだろう?」
「だからって!!」


くそう、こんな恥ずかしい目にあうなら這ってでも行くんだった。

あ〜‥でも。
それはそれで恥ずかしい。

「そうだ紫苑」
「…何だよ?」

思わず声にトゲがあるのはご愛嬌。
少しばかりの照れ隠し。

「昨日の雨が嘘みたいに晴れたからお昼あたり買い物に行かないか?」
「一緒に?」
「陛下さえよろしければ」

にこりと綺麗に笑んだネズミに思わず赤面してしまう。
反則だ。
こんな近距離でそんな事をされたら否応なしに脈が上がり陥落されてしまう。


「…行く‥」



ぽそりと呟いてこれ以上赤い顔を見られない為にネズミの胸に顔を押しつけた。
そこから伝わる熱が心地良い。




雨が強く降る夜は怖い。
また、君は居なくなってしまうんじゃないかって。

『置いてかないで』。
もう二度と。
どんなに辛く厳しい現実でもぼくは逃げたりしないから。
だから君の傍らにいさせて。







「あ、そういえば」
「あん?」



「おはよう。ネズミ」




さあ。
日常という今日を君と一緒に始めよう。



END

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