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□微睡み。(元拍手A)
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「んぅ‥」
紫苑はとろとろとした微睡みの中で、
――寒い。
と感じて身体をふるりと震わせた。
‥せっかく気持ちよく寝ていたというのに。
まだ、寝ていたい瞼を必死に起こし、寒さの理由を知ろうとする。
すると、見えた光景で何故こんなにも寒いかを一瞬で理解させられた。
「‥どうりで、寒い訳だ」
何故なら、掛布団(とは名ばかりの古い毛布)が無いのだから。
いや、より厳密にいうとベッドの上に掛布団が無いからなのだけど‥。
紫苑は深くため息をついて隣に居るベッドの上から布団を追いやった張本人を見やった。
「はぁ‥。全く、ネズミが布団を蹴り落とすから寒くて起きちゃったじゃないか」
返事はない。
当たり前だ。
だって彼はすやすやと寝ているのだから。
「っていうか、自分の分の布団まで落としてるし‥」
(ったく。風邪ひいたって知らないんだからな)
やれやれと上体だけネズミを跨ぐ形で布団を引っ張りあげ、ネズミに布団を掛けて自分も一緒に布団の中へと潜りこむ。
(うう、寒い‥)
布団の熱は既に冷めきってていて温かくなるにはまだ時間がかかりそうだ。
けど、寒いものは寒い。
隣で寝ているネズミへと目を向ける。
『ならばどうやって暖をとろうか―‥?』
紫苑は少しだけ鼓動を早くしながら隣で眠るネズミへと手を伸ばす。
さらりと頬を撫でて直ぐに手を引く。
…反応無し。
ネズミは微動だにせずに規則正しく寝息をたてている。
(大丈夫かな‥起きないかな‥)
ドキドキと緊張しながらネズミにすり寄り抱き込む様に腕をネズミの背へと回す。
途端に触れあった場所から温もりが伝わってくる。
(あったかい‥)
いつもだったら自分からこんな風にネズミに抱きつく事はしないのだけれど‥
(―だって‥寒いし‥)
寒さを理由にほんの少しだけ大胆になる。
「ん‥」
ネズミが腕の中でもぞもぞと身体を動かす。
(起きちゃったかな‥?)
この状況は照れくさいから寝ていてほしい。
紫苑はネズミを抱きしめる腕の力を弱め離れようとする。
が、ネズミは紫苑へと腕を回して腰を抱き込みより密着してきた。
「!? ネズミ?」
「……」
「ネ、ズミ‥?」
「……」
あれ?と思い視線を下げてネズミの顔をうかがって見ると未だに瞳は閉じられたままで‥
(まさか―‥)
(無意識でやったのかな?)
寝ているネズミの顔はいつもより幼く感じさせた。
(……なんか―)
大胆なった紫苑はネズミの頬をぷにぷにとつついてみる。
(可愛いかも‥)
そこまでされても依然として起きないネズミがらしくなく可愛く、何より――愛しい。
ちゅ。
とネズミの額にキスを落とす。
前のキスとは全く違う意味のキスを君に。
別れのキスなんかじゃなく、君と生きるという誓いのキス。
「ふふっ、おやすみ。ネズミ」
そうしてネズミを抱きしめる腕に力を込めて、
「大好きだよ‥」
ぽそりと小さく呟く。
そうして紫苑は瞼を閉じて緩やかに眠りへと落ちていった。
凍てつく寒さ。
それを乗り越えてやってくる暖かな春を夢みながら。
君と共にある事を信じながら―‥。
END