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君の名前※
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ネズミ。

彼の名が偽りなのは明らかだ。
前に教えてくれると言ったと言うのに結局ははぐらかされて終わってしまった。

だから、やっぱり今日も君じゃない君の名前を呼ぶ事しか出来なくて――‥。



腰を揺さぶられ。
汗が散って。
ぼくは嬌声を漏らす。
情欲に濡れた灰色の瞳を見つめ、喘ぎに混じって君を呼ぶ。
深い意味なんてない。
いや、あるのかもしれない。
けれどぼくにその意味はわからない。

ネズミ。
ネズミ。

君の名前だ。
けれどそれは君の本当の名じゃないだろう?
君を真名で呼べない事が悲しい。


「っ‥ぁネ、ズミ」

彼の名前が偽りなのは明らかだ。
けれど本当の名前を知らないぼくはやっぱり彼の偽りの名前を呼んでしまう。

「ふ‥んぁ、ネズミ」

腕を背中にまわして抱き寄せる。
少しでも距離を近づけたくて、境界線など無くしてしまいたくて。
なあに?と打ち付ける腰を休めずに彼は優しく問うてきた。

「っあぁ‥すき、だよ」

君が好きだ。
喘ぎ混じりに精一杯の気持ちを告げる。
快楽から溢れる涙で視界が霞む。
それでも彼が笑ったのがわかった。


「ネ‥」

次の瞬間挿入が更に深くなってぼくは思わずのけぞる。

「ひっ‥ぁああぁ――ッ!!」

衝撃に耐えきれずに精を吐き出す、すると彼も息を詰めてぼくの中で果てた。
ぼくの中に彼の熱が広がる。

荒い息の中、彼がぼくの耳にキスを落として囁く。


「おれも、好きだよ紫苑」
「ッ‥」


嬉しいのに胸が締め上げられたようにきゅうと痛むのは何故だろう。

ネズミ。

ネズミ。
好きだよ。

愛してる。

この気持ちに偽りはないのに、彼の偽りの名前に向かってしか愛を口に出来ないのは酷く寂しかった。



END

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