太陽―The Sun―。
「やぁ…、おはょぅ。イオン。」
笑顔でイオン肩を叩き、近づいて来たのはラドゥだ。
そして、イオンと呼ばれた相手は小さく挨拶をするものの、振り向こうとはせず、薄っすらと少し紅い夕暮れを眺めている。
とても懐かしそうに、恋しそうにその沈みゆく夕陽を眺めていた。
そんなイオンを見ているだけで、ラドゥにはイオンの考えている事がわかる。
「また夕陽を眺めているのか…」
困ったように笑いながらイオンの横に並び、少しだけ夕陽を眺める。
美しいとは決して言えぬような薄黒い雲に配色された夕陽の色。
沈み行く太陽と入れ替わりに、銀色の光を放つ月が離れて二つ見える。
ふと、ラドゥは月を見つめた。
その様子に気付いたイオンがラドゥに顔を向ける。珍しいのだ。
彼が、自ら空を見上げることは。
何時からか、何時だったか、彼はそんな事をしなくなった。
昔は二人で青空を眺めたり、ヒカリの海に出かけたり。
何時だったか。そんな事をすっかりと忘れてしまいそうな気分になる。
「どうしタ?…ラドゥ」
「ん?…ただ…」
「ただ?」
イオンの鸚鵡返しの返事にラドゥは薄く笑って、ただ月を眺めた。
「ただ…私とイオンは月と太陽のよう…と。」
その言葉を聞いたイオンは少し首を傾げる。そうなのか?と疑問をもって。
「太陽と月。イオンはいつも何かを照らしている。だけど私は、小さくなったり隠れたりする臆病者の月…」
うわ言の様にそう告げるラドゥを見て、イオンは首を左右に振った。
完全なる否定の合図だ。
「違ウ!!違ウ…。余は、いつでも汝と共に。ラドゥ。余が太陽では月には会えヌ。」
一息吸って。
「余は、月ダ。ほラ、あの空に輝く二つの月。一つはラドゥ。一つは私ダ。」
イオンは空を指差して言う。
あぁ、やっぱり君は――
「お互いを照らしあっているだロゥ?」
花が咲いたような可愛らしい笑みを零す。
「汝が月なら、余も月ダ。トヴァラシュ…」
あぁ、やっぱり君は。
「そうだな…、イオン。」
同意をする。そして、嬉しそうに笑うイオンを見て、やっぱり。と思う。
トヴァラシュ…やはり、君は…私にとっての太陽だ。