離れても共に

□昏睡
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ああ、もう──疲れてしまった

「寒い……」

どうして、こんなことになってしまったのだろう──

「眠い……」

眠くて眠くて、たまらない。

──どうして、ブライグがあんなところに?

テラはどうなったのか

アクアは

ヴェントゥスは


ゼアノートは、ヴァニタスは──


…考えなくてはいけないのに、何故だろう。力が入らない。


眠くて眠くて、たまらない。


──私は、どうなってしまうのだろう。


このまま力尽き、闇に溶けて──




「何してるの?」

そこへあどけない声

視線だけ動かして確認すると……

「お姉ちゃん、どうしたの? どこか痛いの?」

見るとまだ幼さの残る少女の姿。勿論その手には何も持っていない

この狭間の世界へ、どうやって迷い込んできたのだろう……

「そうだね──少し、痛い」
「ど、どうしたらいい!? お医者さん呼ぶ?」
「ううん、大丈夫。少し休めば──」

──休めば?良くなるだろうか?

いや、きっと────


……それよりも、新しい器。
無垢なる器。
まだ未完全なそれなら、恐らくは


「何をバカなことを──」


それではアイツと同じではないか

そう呟いた。


「本当に大丈夫?」

心配そうに覗きこむ、この笑顔を他者が介入してよいものか。

大丈夫だと首を振り、自虐気味に笑う。幼い彼女は何も知らず笑った。


重い目蓋の中で、離れようとしない少女が不思議で問い掛ける。

「何故……こんなところに?」
「誰かに呼ばれた気がしたの。そうしたら帰り道に変な場所があって、辿ったらここだった」

嬉しそうに笑う少女

「もしかして──お姉ちゃんが私を呼んだの?」


──分からなくて

それとももしかしたら、本当に呼んだのだろうか……

今となっては何もわからない。


ただもう……眠い。



「そうなのかな……」
「何処から来たの? もしかして、外の人?」

人の気など知らず、嬉しそうに問い掛けてくる少女

何故だか……つられてしまう。


「そうかもね」
「すごい! でもどうやって?」
「大きくなったらね……」
「えー」



ああ、ダメだ


──眠い。



「ねえねえ! その耳の飾り、とっても素敵ね!」


その単語に、一瞬だけ目が覚める

耳飾り


──ブライグがくれたもの。



もう……会えないのだろうか


眠って、起きたら──また逢えるだろうか


「思い出……なの」
「大切なものなんだね」


──私と一緒に眠る前に。


片方の飾りを外し、幼い彼女の手のひらへと落とした。


「お守り──持っていってくれる?」
「いいの? ありがとう!」


私にはもう真実を探す力は残っていない

どうか、この若い力に


「幸多からんこと──」



握ったままだったキーブレード

「眠いの? お手冷たいよ」

幼い彼女は、何かを心配したのか……その私の手を握った。



この子に──私の咎が移らないことを祈る。



「ありがとう。少し休んだら大丈夫だから──さぁ、早くお帰り」


朦朧とする意識の中

どうにか幼子を送り出す。

この子をこの狭間の空間に閉じ込めないように。


「うん、分かった。お姉ちゃん風邪引かないでね」




ふと気になったのだ

「……貴女の名前、聞いてもいい?」


そして驚く


「名無しさん!」


──何の因縁だろう。いや、縁(えにし)だろうか

ここへ来て自分と同じ名前の少女と出会うのは。


触れられた手は、伝承されたかもしれない。




この子が、もしかしたら──




────眠い。




「またね!」


「ええ……おやすみ……」







空間に一人になると、入口は閉じられた。



そして、そのまま眠りへと落ちていった──。





END.
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