離れても共に
□繋がり
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もう今は、あまり思い出せない。
けれど──きっと夢ではないはずだと今でも思う。
機関でのふとした休息時間……誰もいない空間で、久しく首飾りを表に出して手遊ぶ。
いつだった、突然現れた道に、場所に、不思議な人。
だけど後日行ったら、そんな場所は無かった。
夢?
私はあの時、白昼夢でも見ていたのだろうか
──いや違う、確かにあの人はそこにいた。
薄れ行く記憶の中で、これだけは手放さなかった。
黒い石の装飾品
彼女が片耳につけていたそれを、私は首から下げていた。
外の世界への興味を持ったきっかけ──。
「お前がどうして──!」
「!?」
瞬時に構えてしまう、が……機関内のメンバーの声と認識して構えをとく
そこには珍しい表情の男が立っていた
「何で……お前が、それ……」
「え?」
彼の視線の先は──自分の胸元
「なんだ、シグバール。これがどうした」
「……そんな訳ねぇな。いや、俺の勘違いだ」
珍しく、戸惑った声色。顔も手のひらで隠してしまい、考える素振り。
よく分からないが困惑してるのは伝わってきた。いつも飄々としている彼が珍しい
「見覚えでもあるのか?」
「……いや」
明らかな、嘘。
石は服の中にしまい、コートを着直して、彼の横をすれ違った。
コツリコツリとヒールの音
だが男の戸惑いなど、自分には関係ない
任務に戻ろうと──
「それ……どうしたんだ」
シグバール
立ち止まるが決して振り返らず
「──貰った」
「誰にだ」
「分からない」
分からないとは、我ながら不適切な答え方だと思ったが……それ以上は何も聞いてこなかった。
そのままその場を後にした。
──あんなもの、似た物はいくつでもあるだろう。確か露店で買った物
それでも、何故だろう
「名無しさん──」
彼女しか、思い浮かばなかった。
いや──同じ音でも彼女ではない。
思い浮かばなくて、なぜだろう。
何もないはずの胸が苦しかった。
「何で……あいつが……」
同じ名前で驚いたのに、今度は同じ物を持っている。
忘れたかったはずなのに、こんなにも強烈な記憶。
──繋がっているのだろうか
そう思わざるを得なかった。
END.
昔の好きな人と会って戸惑った感じです