離れても共に
□運命
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あれは、いつだったか
そう──確か使命に発つ少し前。
噂には聞いたことがあった。無口で変わった奴だと。
それは偶然か、必然か……出会った。
たまたま街の外れで、怪我をして
些細な切り傷だったが……それでも彼女は寄ってきた。気付くと傍に寄ってきていた。
「大丈夫さ、ほうっておけば治る」
ダメだと言わんばかりに怒った顔
そして……持っていたハンカチを包帯代わりに、腕へと結ぶ。
これでひとまず大丈夫だと、さも言わんばかりににっこり笑った。
その笑みに──鼓動が跳ねる。
「お礼……アンタ、名前は」
「お前、まーた勝手に資料の位置変えただろ!」
「んー?」
どうしてこんなことを、思い出したのだろう。
出会ったのは1日
言葉を交わしたのもたったあの1回
それでも──その存在は心に残った。
「いいじゃんーだって非効率だよ、こっちの方が分かりやすいって!」
「それはお前が、だろ!俺の資料だ!」
「じゃあ私のでもある!」
それにしても、どうして……
その名に
その音に
いつも惹かれてしまうのだろう。
「名無しさん」
何の悪びれた様子もなく、アイツは振り返る。
「んー?」
「お前、運命って信じるか」
書類に落としていた目をあげて、こちらを見上げてくる。
「あるんじゃない?非論理的だけど、私は信じてるよ」
信じてる、か。
──女の顔が浮かんでは消えた。
「じゃあ……てめーは俺に怒られる運命だな!」
「そういう運命は却下!」
名無しさんはいつかの女と同じように笑った。
END.