離れても共に
□刹那
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逢いたかった──
でも、会ってはいけないはずだった
なのに、あのじじいのせいで──アイツはまた機関へと呼び戻された
もとい誘拐されてきたようだ。ゼムナスと共に戻ってきた話を聞いた。
会ってはいけない
逢ってはいけないのだと
──もう、使命は果たせそうなのだから。
でもそれはこの城の中では無理な話で──
改めて黒いコートを身にまとった彼女と出くわしてしまった。
身を翻して、背を向けて──
「ブライグ!」
その名で呼ぶ辺り……人に戻ったアイツだと実感した。
「いや、今はシグバールか──」
感情的に強く呼ぶ声
泰然と静かに並べる音
どちらも──懐かしい彼女の響きだった。
だけど、決して振り向かない。
「なんで!」
使命の終わりが見えた今、無意味な情動──
────なのに。
駆け寄る足音
それは闇の回廊を開くより早く──
……後ろからの衝撃。
「なんで、いくの──」
その小さな体が、後ろから抱きついていることを理解した。
見ようとしなかったが……黒いコートをまとった細い腕だけは視界に入った。
「こんな形だけど……やっと、また会えたのに」
ああ
どうしてこうも
無駄な感情を抱くのだろう──
ただただ使命のために全てを尽くしてきたのに、ことごとく揺るがされる……。
いっそ引き裂いて、心を一緒に連れていけたら楽なのだろうか──?
……いや違う。
コイツは──
「シグバール……」
「また……すぐ離れるんだぞ」
何を口走っているか
だけど、昔からそうだった──
「……一緒には、戻れない?」
「──ああ」
研究所で過ごした日々も
「……それでも」
機関で過ごした時も
「私は、逢いたかった……」
──この女に、弱かった。
腕の力が弱くなると同時に振り返り、小さな体を抱き締める──
小刻みに震えているのが分かった。
「シグバール──」
「本当に……無駄なことばかりしやがって」
その匂いが、ぬくもりが
とてつもなく懐かしくて──恋しい。
「もう……研究所には戻らないの?」
──何も言わない。
それでも腕は、背中へと伸ばされた……。
「分かった──それでもいい」
二人の距離が近くなる
ぎゅっと……より、体温を感じられるように
「それでもいいから、今は……逢いたかった」
「素直になったなってハナシ」
「うるさい」
きっともう、隣同士で一緒に歩くことはないのだろう
共に過ごした時間を懐古する……
そして今は──
「名無しさん──逢いたかった……」
何も考えず、ただこの一瞬を胸に。
END.
なんだかんだでうちの本命なので、これが正式ルートです。
絶対的に幸せになれない予感しかないですが
ピーチ姫というか、ロミジュリですかね