離れても共に
□相補
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『明日かの地に──』
その話を聞き、タイムリミットだと悟った。
勿論何度か脱走を図ったが、全て途中で連れ戻された。
そして……二人に連れられて、首謀者の前へ立つ。
「前も言ったが、手を貸すつもりはない」
「気丈な姫君だ──ならば」
互いがキーブレードをその手に宿す。
「無理矢理その身から引き離すのも一興」
──沈黙が続く。
誰も動こうとせず、張り詰めた空気
……ゼアノートのキーブレードが向きを変え、かちゃりと音が鳴った。
するとそこへ──開く闇の口。
「それもいいが、人質としての使い道が無くなるんじゃねぇか」
現れたのはシグバールに一同の視線が集まる。
「ほう──こやつを庇うか」
「ノーバディとハートレスにしたって逆らうのは目に見えてるってハナシだ」
視線を戻すと……いつの間にか、隣の二人が一歩ずつ踏み出し、まるで庇うかのごとく。
「確かに無駄手間だな。二人で暴れてもらっても迷惑だ」
「今の方が、人質として使い勝手がよいだろう。必要なら……守護者達の前で引き裂けばいい」
正直──驚いたのは彼女自身。構えた手を緩めることはしないが、目を見開いて周りを見つめた。
喉を鳴らして、くつくつと笑うゼアノート。
「そうか──お前達がそういうのなら、任せよう」
握られたキーブレードをかき消した。
代わりに近付き……彼女のその手を掴み、挨拶のように胸元まで持ち上げる。
「なっ──」
「ご無礼を、姫君」
その姿はむしろ、どこか紳士的だった。
「貴殿との繋がりはないが、何処か心に引っ掛かるのは……当然のことなのかもしれない」
──後ろでゼムナスとアンセムが一瞬目を合わせたのを彼女は知るはずもない。
「だが、明朝は共に来ていただく。必要ならば──」
「私も抗いましょう」
はは、大きな笑い声をあげて背を向ける。
「養生されよ、若き姫君」
そうして──その影は消えた。
ほっと胸を撫で下ろすのは当人……意気がってはみたものの、手に汗を握っていた。キーブレードを消したことでより実感。
一人では勝てない相手が己を消しにかかろうとしたのだから、当然だろう
それよりも
──恐らく庇ったのであろう三人を眺めた。
誰も何も発せず、アンセムもシグバールもそのまま消えた。
連れて来られた時と同様に、ゼムナスに部屋へと誘導される。
「ゼムナス──」
「君は、じゃじゃ馬だ」
「いきなりそれか」
不敵に笑うのはいつものこと
「我々は事実を言ったまで」
──いつまで経っても、その真意は見えないままだった。
ただ──ひとつ、ハッキリしていること。
「ナナシ」
ベットに腰掛けると、その前に膝をつける。
「君も、私を裏切った」
「ゼムナス……」
「だが、何故だろう──君とともにいる時は、さみしさを、忘れられる気がする」
赤子がすがるように、体にすり寄り、しがみつく。
応えるように……その体を抱き寄せた。
「ゼムナス、私は──」
「これは、一体何であろう。心とは、分からないものだ」
「……そうだな」
残された時間は少ない──
それでもその一時に、心を込めて。
END.