離れても共に
□旅立ち
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人形だけだった姿が動き出す──
その目蓋があがり、海のように青い瞳が見えると……抑えてきたものが溢れて、堪らなくなった。
「ナミネ──!」
「きゃっ」
突然の抱懐に驚き、意識も覚醒
それが……彼女が相手だと気付くと、決して振りほどかなかった。
「ナナシ……?」
「ナミネ……やっと、会えた……!」
周りを見渡せば、見知った顔ばかり……ただし、雰囲気が以前と皆違う。
己に向けられる感情が、復讐心や研究対象としての好奇心ではないと分かる。
「これは──」
「皆が手伝ってくれたんだよ! ナミネは、ナミネとして存在していいんだよ!」
全てが理解出来た訳ではない
だけど……目の前の顔が泣きそうになっているのを見て、涙が出た。
「ナナシ──なんだか、雰囲気違うね」
「うーん、それ何回目だろ……」
しばしの時間だが、二人で過ごす
それはきっと、忘却の城以来──。
あの時とは違い、城壁の上に並んでアイスを食べる……こんな日がくるなんて、想像さえ出来なかった。
とりとめのない会話
リクがどうだの、イェンツォがどうだの……
「名無しさん、そろそろ冷えるから降りてこい」
「はーい」
夕暮れになると、ディランから声が掛かった。
アイスの棒を加えて立ち上がり、沈み行く太陽を見やる──
「ナミネ」
「うん?」
「ありがとう──闇の中で、私を救ってくれて」
「あ……気付いてたんだ」
「もちろん。ナミネのお陰で、今の私がある──ちょっとややこしいけど、皆と繋がれて面白いよ」
「ふふっ、良かった」
太陽が沈み、夜が訪れても、星空と街の光で寂しくはなかった。
この世界から旅立つ日──
グミシップから降りたリクと短い言葉交わす。
「よっ、久しぶり」
「名無しさんも元気そうだな」
「もちろん」
風で白衣で激しく舞う──
そうして後ろから現れたナミネのために、リクの前から歩み退いた。
彼等が並ぶ姿は、全てを知っていれば……とても感慨深いものだった。
「貴女は……」
「ん?」
前へ進んだが、少しして歩みを止めて振り返るナミネ
彼女を……見つめていた。
「ナナシは──来ないの?」
それは悲しみではない
かつてのような苦しみを味わう必要はもう、誰もないのだから。
「うん──私の居場所は、ここだから」
見送りに現れた賢者アンセムをはじめ、輝ける庭の研究員一同が顔を揃えた。
全員を見て……うん、と頷く。
「また会える」
「うん──約束だよ」
小さな指切り
「ナミネをよろしく」
「ああ」
そして、白いワンピースの少女は不思議な船とともにこの世界から去っていった。
昼間の星となって消えるまで……一同はその姿を静かに見送った。
「またね」
小さく呟き──仲間達の元へと駆け寄った。
END.
またねが今回多いですね。
また皆が幸せに過ごせるといいなー
城壁によくのぼってますね