離れても共に

□お好み
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一つの大きな戦いが終わり──

レイディアンドガーデンにも、かつての日常が戻りつつあった。


「ねーねー、エヴェン〜」

机にべばりついている彼を至近距離から呼び掛けるが、集中しているのか相変わらず反応が鈍い。

「エヴェ〜ン」
「……もうなんだ!騒々しい!」

こちらは向かずに、ただ声だけあげられる。


……不満。


──なので、ちょっとかつての記憶から思考を変えてみよう。



「ヴィクセン」


びくりと、背中が反応。

「先日の文献の件だがな」

ゆっくりと……こちらへ顔を向ける。その口はへの字で面白いが、今は取り敢えず続ける。

「……それがどうした」
「似た古い文献だと考察が真逆に近くてな、一度意見を聞きたい」

書類を渡すと瞬時に受けとる


その顔はうつむいていて見えないが──ほんのり頬が赤い気がする。



真横で頬杖をつき、彼の顔を覗き見る。


「エヴェン」
「な、なんだ!?」


──やっぱり赤い。


分かりやすく慌てふためく姿が面白いが……一つの仮説。


「──ノーバディだった頃の方が好きなの?」

口調は至って静かに淡々と言葉を吐く。声質は幾分か低く冷たく、感情はほぼ読み取れないような話し方

それは──機関にいた自分の口調の再現




「な!?何をふざけたことを!」


慌て方があからさまで面白い

ふーん、と小さく返事


「そうか、エヴェンにはこちらの方があっているのか」


顔を健康的に赤くして、怒る。


「バカなことを言うな! どちらのお前も──」
「え?」
「……あ」
「……」
「……」


恥ずかしそうなことを言い掛けたので、互いに自然とストップ



──でも、面白くてついついからかいたくなる。



「……こちらの方が素直だな──ヴィクセン」
「や、やめろ!」



「お二人で何を騒いでいるのですか?」


そこへ現れたのはイェンツォ。不思議そうに二人を眺める。

「あ、ゼクシオン」
「え? 一体どうしたのです?」
「ノーバディごっこ」
「もう、何をふざけているんですか。名無しさんは悪趣味ですね」

にこやかに会話を交わす二人

だけど……気になって一言追加。

「で、どうしてエヴェンは赤くなっているのですか?」
「──!」
「あはは〜」

ふるふる震えて、机をバンと叩く。

「名無しさん!貴様っ」
「私はてっきら、ノーバディの頃の方が好かれていると思っていたぞ。照れ隠しだったのか」
「〜〜!!」


正直なところ……その通りだったので、余計腹立たしくて怒ってみせる。


「貴様いい加減に──!!」


「どういう……意味ですか?」


ぬるっと、間に入ってくるイェンツォの怖い顔。笑顔なのに怖い顔

それを見て固まるエヴェンに、笑う名無しさん


「あ、分かった。エヴェン、さっきの自分で思い付いたからいいや」
「なっ!?」
「んじゃ私戻るね〜」

バイバイと去っていく彼女の背中を今度は止めようとするも時すでに遅く──


「どういう、話……でした?」



──残った二人でどんな会話があったかを知る者はおらず。








「おや? イェンツォはどこだ?」
「エヴェンと仲良くしてましたよ」
「それはそれは、微笑ましい」
「先生、それよりこの解析が──」





END.





姫さん楽しそう(笑)
前の連載で、無体姫さんの方がヴィクと相性良さそうって書いてたのを思い出してできました

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