離れても共に

□心のままに
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窓から眺める月は、まんまると満ちていて美しい

でもそれには手が届かないジレンマ

欲しいものは目の前にあるのに、いつだって届かない。



ぼうっと眺めていると──感じた気配に振り返った。



「部屋に直接繋ぐなといつも言っているだろう、シグバール」


すぐに出た言葉に男は小さく笑う。

「懐かしいな、それ」
「……体に染み付いてるって問題あると思うぞ」

彼女は唸るが、それを面白そうに彼は眺めた。


……少しして、笑い声も落ち着いて


静寂を取り戻す頃──


ベッドに腰掛ける彼女を、正面からそっと抱き締める。

応えるかのように、彼女もまたその手を男の背中に回した。


「ブライグとは一緒にいられないんだね」
「──ああ」


込める力を強くすると……互いの匂いをより強く感じられる気がした。

「また逢えるといいな」

腕を少し緩めて、彼女の額と髪に唇を落とす

「──いい子にしていればな」
「いつもそればっか」
「お前、いい子だったことあるのか?」
「……耳が痛いね」




──体を、離した。



「……いつか」
「ん?」



いつか迎えにこられたら──


──なんて、言えたらどれだけ幸せだろう。


だって、いくら姿が変わり時代が流れても……彼女に惹かれることには変わりないのだろう。


「──名無しさん」
「だから何さ〜」



愛している


──今は言えない言葉を飲み込んだ。



「寂しいからって泣くなよ」
「イェンツォ達といるからいいもんねー!そっちこそ除け者だからって妬かないでよ」
「誰がだ、この減らず口が」


心がある者同士のやり取りがこんなはにもくだらなくて、こんなにも愛おしい


だけどそれを……手離した。


──言葉が続かない


道は、違えたのだ。


代わりに頭をいつものように、ポンと一撫でして背中を向けた。



「じゃあな」


そうして……闇の口は閉じられた。








静寂の後に……彼女が呟く。


「鍵が導く──」


──心のままに、いられたらどれほどいいだろう。


その言葉に答える者は誰もいなかった。




END.




正式ルート
次はちょっと後書きです

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