ノンの妄想部屋

□桜の木の下には
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「すこし、寄り道しよう」
ヒイロが彼女を促す。

「すぐもどる」



彼は、桜の木の下に彼女を立たせた。
桜の木を見上げると、それは桜色の霞のようで美しい。
一瞬の間があった。

「桜の木の言い伝えがある…知っているか?」
唐突に彼が尋ねる。
「いいえ」
「この桜の木の下にあるものが、桜の花を美しくしているという。なんだと思う?」
「そうね…。悪いものじゃないかしら?」
「悪いもの…?」
「花は冬の間、綺麗な花を咲かすために努力してるって聞いたわ。春が来て、みんなに綺麗な花を見てほしいから…辛い事や、悲しい事、悪いものを、土のなかで花を咲かせるための力にかえて、春を迎えるのかもしれない…って考えると素敵じゃない?」
「そうか…」
彼は独り呟くと、彼女の体を抱き寄せ、唇を重ねた。
「必ず迎えに行く。今はまだ…花を咲かせずに待っていてくれないか…」
桜の花びらが風に舞い、二人を桜色の嵐がつつみこんだ。
「…はい。でもね」
なんだ、と彼が尋ねる。
「何時までも待たないわ」
その言葉に固まるヒイロ。そんな彼をみて、悪戯っぽく笑ってリリーナは言った。
「私から迎えにいくもの」
ヒイロの返事はなかった。
…唇をふさがれていた事はいうまでもない。
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