ノンの妄想部屋

□桜の木の下には
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「現実なのかしら?」
「何がだ?」
顔色一つ変えずにヒイロがいった。
「今、ここにあなたといられる事が…夢みたい。夢なら醒めてほしくないわ…ずっと…」
そう、いつも忙しくて、会いたいときにもあえないのが当たり前だった。
目の前に彼がいる、今の状況はとても贅沢な時間だと思う。触れたり、話したり。そんな当たり前のことが、とても贅沢なことに感じられてしまうのだ。

彼が少し微笑んだ。
同時に、抱きよせられた。
「!」
心拍数がはね上がる。口から心臓が出てきそうだ、と彼の腕のなかで思う。
「お前は俺が守ると言っただろう」
リリーナは彼の胸に手を当てた。
心地よいリズムをうっている。
「ヒイロ…お願い…しばらくこのままでいて…」
忘れないように。
今、この瞬間を、ここにいることを、忘れないように。
二人はしばらく黙って、お互いの体温と鼓動を確かめあっていた。
リムジンの窓の外では桜並木道にさしかかったようで、1面の桜色だった。
「…綺麗…」
「桜か…」
「春に咲く花でしたね…春だってこと、忘れていました。」
急に、ヒイロが運転手に言った。
「少し停めてくれ」
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