小説

□真の願いと現の夢
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まず目に入ったのは黒い髪。そして、禍々しいまでに紅い目。
腕が奇妙に長く、昌樹の胴ほど太い。

らんらんと光る目が昌樹を捉えた。あの目をどこかで見た。

どこで?

「我が名は、玄兎」

耳まで届く口を、玄兎が開いた。

「会いたかったぞ。安倍昌浩」

まさひろ、と浩樹が口を動かした。
昌浩と言った。確実に。
『安倍昌浩』は千年前の人間だ。この時代にいる筈がない。
そんな考えが浩樹の頭の中を占めていた。
太陰と玄武は、玄兎の言葉の意味が上手く飲み込めていなかったが、玄兎から発せられる殺気を感じ、早々に臨戦態勢をとっている。

「まったくお前は上手く隠れてくれた。そりゃあもう腹がたつほどになぁ」

反応を示さない四人に構わず玄兎は続ける。

「でもまぁ、お前の分御霊が出てきてくれたおかげで見つけやすくなった。そして『俺の目が届く場所に出てきてくれた』」

昌樹は意味が分からないと言おうとした。だが、言葉は出なかった。


何もない空間から触手が出てきて、昌樹の腹部を貫いた。


痛みは無い。ただ、頭の中が霞がかった感じがした。三人が昌樹を呼ぶ声がした。
意識を失う前にあの声を聞いた。夢の声だ。


み つ け た
 

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