長編駄文
□弦月
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何故
こんなにも心乱されるのだろう
想うだけで嬉しくて
想うだけで苦しくて
この想いを胸に抱き始めたのは
何時からだろう。
『弦月』
ただ、繰り返し想うだけの日々だった―。
恋次はぼんやりと、空に浮かぶ月を眺めていた。
その月は、半月に近い、三日月だった。
恋次が考えて居るのは白哉のことだ。
白哉は己の、朽木家の誇りを護る為に、自分達を欺いていた。それにより、恋次とルキア以外の死神たちは白哉を少し疎ましく思って居るのが伺える。
それは悲しいことだが、恋次は白哉の取ったその行動を誇らしく思っていた。
確かに、頼って貰えないことや、自分までも欺かれて居たことは寂しいと感じた。けれども己の誇りを貫き通した白哉を尊敬した。そして何より、そんな白哉が自分の隊長であることはとても誇らしいことだと感じて居た。
だからこそ、どうにかして死神たちに、特に六番隊の隊士たちに白哉の信用を取り戻せないだろうか、と恋次は考えているのだ。
そうして一人、考えて居ると後ろに千本桜の気配を感じた。
「……どうしたんだよ、千本桜。何か用か?」
恋次が振り向くとそこには千本桜が立っていた。
千本桜は恋次の脇へやってくるとそこに腰を下ろす。
「散策をしていたら、お前の霊圧を感じたので、来てみたまでだ」
「お前も物好きだなぁ…」
「貴様に云われたくはないな」
「ああ、そう」
恋次は一つため息を吐くとまた月を見上げた。
「…恋次」
「何だよ」
「恋次は、月が好きなのか」
「何でそう思うんだよ」
「俺が恋次に会う時は何時も月を見ているからな」
千本桜はそう云って視線を恋次から月へと移した。
恋次は千本桜にちらと目をやるとまた月に視線を戻した。
「月は、綺麗だから。まあ、好き…かなあ…」
「…そうか」
「あ、つってもお前が俺に会いに来るのが夜だからじゃねぇの」
「…そうだな、そうかもしれぬ」
千本桜は何やら納得した様子で立ち上がった。恋次はその様子をじっと見ていた。
「では、今度は昼にでも会いに来よう」
千本桜そう呟くと、その場から姿を消した。
「あいつってホント、唐突」
呆気に取られた様子で恋次は小さくため息を吐いた。
翌朝、恋次は白哉と隊士たちとの間に以前よりも距離感が離れていないかと心配しながら六番隊の隊舎へ向かって歩いていた。
隊首室に近付いて来たので俯き加減だった視線を上げるとそこには千本桜がいた。
千本桜は恋次に気が付いたらしく声を掛けてきた。
「お早う、恋次」
「………お早う、つーか何でそんなとこに居んの?」
恋次が不思議に思ってそう聞いた。
「何故か。理由と云えば、月の居ない時にお前に会いたかったからだな」
「…まあ、確かにこの時間帯なら月は出てないよな」
その答えを聞いて、やはり彼は唐突な人物なのだろうと云う核心を得た恋次だった。
「じゃあ、俺隊長に挨拶してくるから」
恋次は自分の前に居る千本桜の脇を通って隊首室へと入った。
「隊長ー、お早う御座いますー」
「嗚呼、恋次」
恋次が笑顔で白哉に挨拶をすると心なしか穏やかな表情で白哉は返事をした。
「皆の様子はどうっすか?」
「特にこれと云って問題はない」
「そうですか、なら安心ですね」
恋次は白哉が暫く空席にしていたその場に居ることに満足していた。
「……どうした。その様な顔をして、何か良いことでもあったか」
「いえ、別に?隊長が六番隊に居ることが嬉しいだけですよ」
恋次が笑顔で云うと白哉も表情を緩めた。
「そうか」
「はい」
恋次は返事をして自分の席に着いた。すると、隊首室の戸が開いた。
「白哉、総隊長が呼んでいるぞ」
戸から顔を出したのは千本桜だった。その姿を確認すると白哉は立ち上がり戸に向かった。
「…分かった」
「俺も行くか?」
「私だけで構わぬだろう」
「分かった。俺はここで待とう」
千本桜の返事を聞くと白哉は恋次を見た。
「恋次、済まぬが暫く空ける。ここを頼むぞ」
「はいっ!任せといて下さい」
恋次が答えた。
それを聞いて白哉は恋次から視線を外し、ちらと千本桜に目をやり、総隊長の元へと向かった。
「総隊長、朽木隊長になんの用だろうなー…お説教とかじゃなきゃ良いけど」
恋次は心配そうに白哉が出ていった戸を見つめている。
「さあな、斬魄刀の俺には分からぬ」
千本桜はそう云って肩を竦める。
「そりゃそうだけどよー…そんなにはっきり云わなくても良くねぇか?」
恋次が肩を落として聞くと千本桜は首を横に振った。