長編駄文

□淡墨桜
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時折、鈍く鈍く


しかし何処か鋭い様な痛みに襲われる


最初は気にならない程度だったそれは


徐々に目を反らせない程強くなっていた。



『薄墨桜』



その痛みの原因は、ただ一つの想いだった。



白哉が恋次の髪を褒めてから数日、恋次の態度が何処かよそよそしいものになっていた。
具体的に云えば、朝、夕と以前ならば笑顔で挨拶をしてきていたが、今では白哉を見るや否や直ぐさま顔を背けたまま挨拶をしてそそくさと自分の席に着いて黙々と執務を始めるのだ。
以前は多かった会話も今ではあまりなく、沈黙が漂うことが多い。
白哉は自分が何かしただろうか、と考えると思い当たるのは先日、恋次の髪を褒めたことだ。しかし、それで自分が避けられる理由が分からない。
それから、気にかかることがもう一つ。

「恋次」

「はっ、はいっ!」

声を掛けると必ずと云って良い程、恋次はやけに過剰な反応を示す様になっていた。白哉はその恋次の変わり様に思っていたよりもショックは大きかった。

「筆が進んで居ないが、どうかしたか」

最近書き損じの書類や未処理の書類が多い為、そう問い掛けた。
恋次は慌てた様子で顔を下げた。

「すっすみませんっ!」

「…否、近頃上の空の様だが…どうかしたか」

この状態が続くと執務が全く進まず困ると思った白哉はそう聞いた。

「…えっとー…その…あの…」

恋次は俯いてボソボソと何か呟いている。

「………」

白哉は黙って恋次を見ていた。

「……あの」

「何だ」

「あの、俺…」

何かを云おうとして口を開くが直ぐにまた口を閉じるという行為を恋次は繰り返していた。
暫くそうして居ると思うと急に恋次は立ち上がった。

「だあああっ!やっぱ無理です云えませんすんません!!失礼します!!」

恋次はそう叫ぶと隊首室から飛び出て行った。
白哉はその後ろ姿が見えなくなると直ぐに視線を落とした。

「…嫌われたか」

そう口にして、思った以上に傷付いて居る自分に気付いた白哉は苦笑した。
いつの間に自分はこんなに恋次を想って居たのだろう。
そう考えてから一つため息を吐いて目の前の書類に取り掛かることにした。

恋次が走り去る時に耳まで赤くしていたことに白哉は気付いて居なかった。



一刻程が経つと恋次が控控え目に隊首室に顔を出した。

「隊長…」

「何をしている、早く書類を片付けろ」

恋次が何とも情けない声を出して白哉を呼ぶが彼は冷たく書類を片付ける様に云った。

「さっきは取り乱してすみません…」

恋次は肩を落として白哉にそう云うと頭を下げた。

「気にしておらぬ、早く書類を片付けろ」

白哉は自分では何時もと変わらぬつもりだったが普段以上に冷たい声になっていた。

「…はい」

すごすごと恋次は席に着き書類の処理を始めた。しかし時折、白哉何か云いたげに見るが、彼が顔を上げると慌てて書類に向かっているふりをする。
そんなことを暫く繰り返している。
そうして夕刻になり、終業の時間になるまで沈黙は続いていた。

そしてその沈黙はこの日から一週間続いた。

一週間が経ち最初の内、周りの死神達は良く言葉を交わし親しそうにしていた二人から会話が無くなったことをただの喧嘩程度としか思って居なかった。
しかし、流石に一週間ほどその状態が続くと皆が皆ただ事では無いと思った。
そして特に心配されているのは恋次の方だ。

何時も恋次が隊舎の廊下を歩居ているとピンと立ち、大きく揺れている紅い髪もどことなく元気がない。

「阿散井!」

「…檜佐木さん」

第一に恋次の異変に気が付いた檜佐木は恋次に声をかけた。恋次はそれに応えるがあまり元気がない。
白哉との一件があってから恋次は目に見えて元気が無くなっていた。普段は誰にでも明るい笑顔を向け、親しまれて居たがめっきりその笑顔が減ってしまっていた。

「お前、最近どうしたんだよ変だぞ」

「…いえ、別に何にもないっすよ」

「いーや、何かあるな、最近かなり元気ねぇし」

「元気ですよ、大丈夫です」

そう云って恋次は笑うが何処かぎこちなさが見え、何時もの笑顔とは全く違うものだった。
その様子を見た檜佐木は気づけばぎゅうと恋次を抱きしめていた。

「ひ、檜佐木さん?」

突然のことに恋次は身を強張らせ、声を上げる。檜佐木は恋次を抱きしめたまま口を開く。

「なあ、阿散井…俺がお前に好きだって云ったのは覚えてるか?」

「え…は、はい…」

「確かにお前にはフラれた。でも、俺はまだお前が好きだ」

檜佐木は恋次から離れじっと彼の紅い目を見た。

「だから、お前の力になりたいんだ」

暫く恋次の目を見ていた視線が俯き、不安げに揺れる。

「…俺は、相談相手にもならねぇか?」

そんな檜佐木を見ていた恋次は戸惑う。


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