長編駄文
□望月
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貴方のことが
愛しくて、愛しくて
抑え切れないこの想い
今こそ貴方に伝えよう。
『望月』
忘れてくれても、構わない
ただ、この想いを聴いて欲しい。
恋次と千本桜が親しくなっていることを気に食わない、と白哉は思っていた。
何故なら、以前から千本桜が恋次に惹かれていることを薄々感じとっていたからだ。白哉は千本桜が自分と似た気質を持っていることを重々承知していた。それ故に、必要以上に二人が親しくなることを危惧して様子を見ていた。
そんな中で恋次の様子が普段と違って居たことに気が付いた日があった。
その日の前日は稽古で無理をしたと云うことで千本桜の言付けで急な有休を申し出て来ていたのも何やら妙だと思っていたが、その日は疲労の表情を浮かべることが多かったのだ。
白哉は気になり、恋次に聞いたが彼は白哉に心配をかけまいと笑顔でなんでもないと答えていた。
しかし、その答えを聞いた白哉は何かがあると云う疑惑が核心に変わった。
それは、その日の夕刻頃のことだ。
何時もの様に執務を終えて隊首室を去ろうとしたその時、廊下から蛇尾丸二人の会話が聞こえてきた。
「なあ、猿の」
「なんだ、蛇の」
「千本桜の野郎は一体何考えてやがんだろうなぁ」
蛇が不機嫌そうな声で猿に話し掛ける。
「さあ、儂には皆目検討もつかんのう…」
猿は深いため息を吐いて首を振る。
「だよなぁ…だってあの恋次にあんなことすんだぜぇ、イカレてやがる」
怒りと呆れの入り混じった様な声で蛇が云う。
「そうじゃのう、まあ、恋次が許しては居るが…儂らが目を光らせるしかなかろう」
そして猿も考え込む様にして頷いた。
「ほう…千本桜がどうかしたか」
千本桜が恋次に何かをしたことは感じていたが何をしたのかが分からず、白哉は蛇尾丸たちに問い掛けた。
「嗚呼、したとも、我らが主を辱めたからな」
猿が憤慨しきった様子で唸る。
「辱め…?奴が一体何をしたと云うのだ」
「あやつはな、無理矢理恋次と事に及んだのじゃ…って!く、朽木白哉!」
白哉の存在に気が付いた蛇尾丸たちは目を丸くして驚いた。
「千本桜が恋次を相手に事に及んだ、と云ったな?」
「あ、嗚呼…」
「そうか、それは昨夜のことか」
「嗚呼、そうじゃ、どういう考えかは知らんがな」
猿は不快げにそう云った。そんな猿を一瞥して白哉は頷く。
「…分かった」
白哉は危惧していたことが現実になったと云うことを知らされ、今後どうするかを考えながら帰路に着いた。
今日も恋次と千本桜は稽古場で稽古をしていた。木刀のぶつかり合う音が良く響く。
「踏み込みが甘いぞ」
「うるせぇっ!」
千本桜が口を開けば恋次は悪態を吐きながら一層強く打ち込んで行く。そうして、今では何時もの風景となった稽古場に細い影が射した。
「恋次」
「あ、隊長!」
自分の名を呼ぶ声の方を向けばそこには白哉が佇んでいた。
「どうしたんですか、こんな時間に、何かありました?」
恋次は千本桜への打ち込みを止めて白哉に駆け寄る。
「否、稽古中に済まぬな。千本桜に用があって来た」
「あ、そうなんですか。分かりました。おーい千本桜!隊長が呼んでるぜー」
「嗚呼」
千本桜は返事をして二人の元へゆっくりと歩み寄る。ちらと千本桜と白哉の二人は視線を交わすと稽古場から出て行った。
二人の姿が見えなくなると恋次は一人、何処かつまらなそうに素振りを始めた。
稽古場から出て白哉は朽木邸の方へ歩んでいくその数歩後ろを千本桜が歩いていた。
「…千本桜」
「何だ」
後ろを振り返りもせずに白哉は千本桜に問い掛けた。
「貴様一体何のつもりだ?」
「何の話だ」
「恋次とのことだ」
恋次と云う言葉を聞いて千本桜は白哉の方を強く見る。
「…恋次と俺が何だと云うんだ」
「蛇尾丸から聞いたぞ。貴様が恋次と無理矢理にことに及んだ、と」
ちらと千本桜を見た白哉の瞳は酷く冷たい。
「………」
「云うべきことはないのか?」
「…ない」
「それは肯定と取って良いな」
「…嗚呼」
それを聞いた白哉は足を止めて振り返る。
「私はお前に云った筈だ。恋次を苦しめることは許さぬ、と」
「そして俺が恋次を苦しめているのはお前だと、返したな」
「そうだ」