長編駄文
□A precipice in front,a wolf behind.
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今日も白哉は何時もの様に大学へ行きバイトを終えて帰宅した。
すると、もう深夜だと云うのに家の前に人影があった。
白哉は何故自分の家の目の前に人が居るのが不思議でならなかったが早く家に入りたかったので声を掛けた。
「…何の用だ」
白哉の声に反応して家の前に居る人物は振り向いた。
「ああ、夜分にすみません…ちょっとお聞きしたいことがあって来たのですが留守でしたので失礼ながら待たせて貰ってたんです」
応えた人物は癖のある茶髪に眼鏡、口調も丁寧で社交的な男性だと云う感想を抱いた。
その男の脇には二人の男性が居て片方は白で片方は黒と云う印象を受けた。
「それで…何の用だ」
「ああ、いえ大したことではないんですよ」
眼鏡の男は顔に笑顔を貼り付けたまま白哉に云った。
「此処に居る赤毛の子を返して下さいませんか?」
「…何?」
それを聞いた白哉は眉を潜めた。
「私はその様な子は知らぬ」
「いえいえ、そんな筈はありませんよ…ちゃんと確認は取れて居ますからね」
「私は知らぬ、貴様らの勘違いだ」
彼の発言を不審に思った白哉は彼等を無視して家の戸に手を掛けた。
すると家の中からバタバタと足音が聞こえてきた。
「おかえりなさ…」
白哉の元に笑顔で駆け寄ってきた恋次の表情は彼等を見た途端に目に見えて怯え始めた。
「ほら、居るじゃないですか」
男は笑った。
「あ…あ…あい、ぜんさま」
恋次の怯えきった表情と男の作り笑いを交互に見た白哉は何が起こって居るのか良くは分からなかったが一つだけ分かったことがある。
「帰っておいで、恋次」
この男が恋次の笑顔を奪った者だ。
白哉は瞬時に恋次を抱き抱え男を睨み付けた。
「貴様…一体何者だ」
「ああ、申し遅れました。藍染惣右介と云う者です宜しくお願いします」
藍染と名乗った男は一歩白哉と恋次に近付いた。
「さあ、恋次…こっちにおいで」
恋次は怯えながら一度白哉を見て小さく頷き藍染の方へ向かおうとした。
白哉は恋次が自分に危害が及ばない様にしているのだと気が付いた。
そしてここで恋次が藍染の元へ帰れば二度と恋次と会えないということ。
彼にはそれだけ理解出来ればそれで充分だった。
藍染の元へと向かおうとしている恋次を抱き締め白哉は云った。
「貴様らに恋次は渡さぬ!」
白哉は恋次を抱えた状態のまま駆け出した。
「要」
「はっ!」
藍染に要と呼ばれた白哉が黒と云う印象を受けた男は彼を追う。
恋次は驚きながらも自分を置いて行くように白哉に呼び掛けていた。
だが彼は恋次の声を無視して黒い男に追い付かれないように気を付けながらジャケットのポケットからケータイを取りだしある人物の番号を呼び出した。