駄文

□Godeess Juno's holiday.
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二月十四日。

現世で『バレンタイン』と云われる日だ。
其の『バレンタイン』のせいか瀞霊邸の死神(特に女性)の多くはそわそわと落ち着きが無い者が多く見られた。
そんな中、一人の死神も『バレンタイン』のお陰で酷く困っていた。

「…どーしよ」
ハァ…と深く溜め息を吐いたのは紅髪の死神阿散井恋次。彼は困り果てた様子で六番隊執務室の前を行ったり来たりしていた。
「………」
そんな彼の手には小さいながらしっかりと包装された小箱が握られている。
「…どーしよ…どーすりゃイイんだ…俺…」
恋次の困っている理由はこの箱にあるらしい。
「…うじうじ悩んでても仕方ねぇ!ちゃんと渡すんだ!」
どうやら彼もバレンタインの為に落ち着きの無い一人の様だ。恋次は想い人…既に恋仲である六番隊隊長朽木白哉に贈り物をしようと心を決めて戸を開き……………………泣きたくなった。

「……………」
黄色い声を上げ手に箱を持ち騒ぐ女性の死神に囲まれている白哉の姿を見たが為に。
「あの…これ貰って下さいっ!朽木隊長!」
「あっ、私も私も!」
「あーっ!私もーっ!」
「………」
白哉は動じることなくただ其れを眺め、無表情に受け取って居た。別に彼は喜んでいる訳では無いのだが与えられた衝撃は恋次の決意を折るのには充分だった。
「……バカみてぇー…」
そう恋次は呟いて執務室の戸を閉じた。
「…どーしよ」
恋次は最早贈り物では無くなった小箱をじっと見詰めた。
「自分で食うのも…なぁ」
幾ら甘い物が好きだからと云っても自分で食べてしまうのも虚しいだけなので彼は食べたいと思わ無かった。
そしてそう云えば一護はチョコレートが好きだと云っていたのを思い出し一護にくれてしまおうと思った。



恋次は白哉に書類の提出と偽って現世の一護の家にやって来た。
「…おーい、一護ぉー」
彼は一護の家の窓を開ける。
「恋次!?」
一護はいきなりやって来た恋次に酷く驚いた。そんな一護の前に彼はずいと小箱を出し一言。

「やるっ!」
「……………は?」

一護の頭はいきなりのことにフリーズした。恋次はぶっきらぼうに「これやるッ!!」としか云わない。
「……俺に?」
一護は自分を指差し呆けた顔をしていた。
「……いちおー、な」
恋次は少し落ち込みながらそう小さな声で云った。
「一応ってなんだよ一応って」
一護が怪訝な顔をして恋次に聞いた。
「…実はさぁ…」
彼は此の小箱が自分に贈られるまでの経緯を聞いて脱力した。
「てことはアレか、バレンタインで白哉にチョコ渡そうと頑張って作ったは良いが白哉が一杯の女からチョコ貰ってんのを見て渡す気が失せて俺が確かチョコ好きだったなーとか思い出して持って来たと?」
「…そう」
恋次は小さく頷いた。
「…おま俺に死ねって云ってんの?」
恋次は呆けた顔で「何で?」と聞いた。
「ふざっけんなよお前!!!そんなん知られたら俺白哉に殺されちまう!!(嬉しいけど!)」
白哉の逆鱗に触れたく無い一護は酷く狼狽する。
「…隊長が知る訳ねーじゃん…ビックリさせようと思ってバレない様に作ったんだからさ」
恋次は顔を背けてそう云う。
「(尚更貰い難いわ!!!)あー…だったら渡せよ」
「…そんな自信ねーし…沢山貰ってたから俺のなんて要らねーだろうから…これで隊長に要らねぇって云われたら立ち直れそうにねぇし」
しょんぼりとした恋次を見ていたら悪いことをした気がしたので彼は仕方無く貰うことにした。
「…あ゙ー…そこまで云うんなら貰ってやるよ…ありがとな、恋次(義理だけど恋次からチョコ…!)」
そう一護がはにかんで云うと恋次は照れながら「おぅ」と返事をした。
「で?チョコって云っても確か白哉は甘いもん嫌いじゃなかったか?」
恋次はそんなことは知っていると一護を睨み付けた。
「だから自分で作ったんだよ!甘さ控え目でびたーチョコってやつ!」
「ビターなビターチョコレート」
一護はなんでチョコはちゃんと云えるのにビターは云えないんだ…と思った。
「それだ!」と恋次は頷く。
そんな恋次を可愛いと思った辺り自分の頭は終わったと彼は思った。
「…でもお前良く俺がチョコ好きだって覚えてたな」
「あぁ、バレンタインの話聞いたのもお前からだしな」
「ふーん、ああそう」
「それにバレンタインってので浮かれてるのも女ばっかだしな」
「それは確かに…」
そういえば学校の女子達もワイワイと騒いで居たことを一護は思い出した。
「こんなことして隊長に女々しーとか思われるのも泣けるから諦める」
「……そうか」
「そろそろ戻らねぇと隊長に叱られちまう!じゃあな一護!」
「おう、またな」
慌てた様子で部屋を出て行く恋次の背中を見、次に恋次から押し付けられたチョコレートの箱を見、一護は大きくため息を吐いた。
「やっぱ渡すべきだよなー」
一護はそう呟いて出掛ける支度をし始めた。

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