長編駄文
□望月
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白哉は酷く不機嫌そうに千本桜を睨んでいる。
「お前は、自分が恋次を苦しめていることに気付かないのか」
「…何?」
「恋次はお前を想っているのだ」
千本桜はギリと拳を握り締める。
「そしてお前も恋次を想っているのだ。何故気付かない」
千本桜は苦しげに言葉を吐きだしていく。
「お前が恋次に惹かれているのも、恋次がお前に惹かれているのも知っている」
千本桜が白哉を見る目は怒りと寂しさが入り混じった様な光を放っていた。
「だが、俺は、お前が恋次を見ているのと同じだけ恋次を見ていた。想っていたんだ。しかし、俺は斬魄刀だ。想いを伝える術も何もない。存在を知らせることも、会話をすることも、触れることも何も出来ない。ただ想うだけだった」
白哉は千本桜をじっと見ている。
「それが、こうして実体として恋次の前に現れて直に会話をして、触れることが出来ると知った時に、俺がどれだけの喜びを得たか分かるか」
千本桜は一度口を閉じて白哉を見ると彼は小さく首を横に降った。
「分からないだろう。初めて恋次と会話した時、名を呼ばれた時、笑顔を見た時、触れた時。俺は、嬉しかった…幸せだったんだ…」
そう云って、千本桜はとても優しく目を細めて幸せそうにしていた。
口を引き結んでいた白哉が口を開いた。
「それで貴様は恋次を愛している、と」
「…そうだ」
千本桜が白哉に応えた時には先ほどの優しさは消えていた。
「お前の、恋次への想いが相当なものだと云うのは大方理解した」
白哉は真っ直ぐに千本桜を見る。
「しかし、千本桜。私はお前の主として見過ごす訳には行かぬ」
「何故だ」
「お前は私が恋次を想っていると云ったな」
白哉が問うと千本桜は頷いた。
「確かに、私は恋次を想って居るのだろう。しかし、それはお前とはまた違う想い方だ」
千本桜は意味が分からないと云った様子で白哉を見る。
「斬魄刀のお前に理解出来るか、出来ないか、それはどちらでも構わぬ。だが、想い方や想いの姿はその者によって変わる」
益々意味が分からない様子で千本桜は首を傾げる。
「…そうだな。私と、お前は恋次を想って居る。お前は恋次を恋情、恋人と云った類いの想いを持っている。私は、恋次をルキアと同じく家族として想っているのだ」
白哉は少し考える様にして俯き、暫くしてまた口を開く。
「私は、本当の意味で恋次を幸福にしてやることは出来ぬ。だが、恋次を幸福にする手伝いは出来るし、不幸になるのを防ぐ手立てもある」
「…それは暗に俺が恋次を不幸にするとでも?」
「そうだ」
そう云って白哉は頷いた。それを聞いた千本桜は強く白哉を睨みつける。
「もうこれ以上、お前と話すことなどない」
千本桜は云い終わるのと同時に白哉の前から姿を消した。
千本桜が居なくなってからも、白哉は暫くそこに佇んでいた。
その頃恋次は書類や筆記用具等を片付けて帰り支度をしていた。
全てを片付け終えた恋次が戸の方を見るとそこに千本桜が居た。白哉と共に立ち去った筈の千本桜がそこに居たことに恋次は驚いた。
「あれ、隊長と一緒じゃなかったのか?」
「嗚呼、話は終わった」
「そっか、じゃ俺帰るけど…お前どうすんだ?」
恋次が首を傾げて千本桜に聞いた。
「特に…俺も帰る」
「良し、帰るか」
恋次が笑って云うと千本桜は小さく頷いてその後ろを追った。
二人で並び、ゆっくりと歩いて居ると恋次がふと上を見上げて立ち止まるる。
「今日は綺麗な満月だなあ…」
頭上高くの満月が二人を照らしている。
「…そうだな」
千本桜は恋次といっしょになって空を忌ま忌ましげに見上げている。
「…あ、千本桜!あれ!」
恋次は月から目を離したかと思うと急に駆け出した。
「恋次…?」
その様子を不思議に思いながら千本桜は後を追う。
「見ろよ!すげー綺麗だな!」
「ああ…綺麗だ」
恋次が向かった先には満開の桜が咲いていた。
「こんな綺麗に咲いてるなんてな…こんな穴場初めて知った」
桜の花は月明かりに照らされてうっすらと光を放って居る様に見えた。
「綺麗な桜だなあ…」
そう云って恋次は嬉しそうに笑っていた。千本桜はその脇に立って恋次の姿をじっと見ていた。
「ん?なんだよ千本桜。俺の顔になんかついてるか?」
千本桜が見ていることに気が付いた恋次は不思議そうに聞いた。