お題

□愛してるから壊したい10題
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1.きみが愛しすぎるから

千→恋(切ない?



いつからだろうか、あの紅い色から目が離せなくなったのは。
多分、それは我が主の方が先だろう。
そして、彼はそれより前から主だけを見つめていた。

ただ、それが、

それだけが、

―狂おしい。



俺は、実体化してからと云うものこんな機会が来ようとは思っても見なかった。それを喜ばしいと思うと同等の悔しさを感じていた。

…嗚呼、儚い期待は深い絶望より質が悪い。

「千本桜?どうしたボーッとして」

「…否、何でもない」

「ふぅん…なら良いけど、早く行こうぜ」

「嗚呼」

恋次は俺の衣の裾を引いて俺を急かした。

「早くしないと売り切れちまうだろ。せっかく隊長からお許し貰ったんだから…」

「分かったから引っ張るな」

今、俺は恋次と白哉に許しを貰い、そう長くはない休憩時間に鯛焼きを買いに来ている。
何故俺が着いてきて居るのか、と云えば恋次が鯛焼きを買うことに夢中になって執務に遅れてしまわぬように見張りの役を白哉に云い付けられたからだ。

暫くして、恋次はどうにか鯛焼きを買うことが出来たらしく随分と嬉しそうにしている。

「千本桜ありがとな、そんなに甘味好きでもねぇのに付き合ってくれて」

恋次は笑顔で俺に礼を云った。

「…嗚呼」

「早く戻らねぇと隊長に叱られちまう、急ぐぞ千本桜!」

恋次はそう云うなり俺の腕を掴んで隊舍に向かって駆け出した。



―嗚呼、目を合わすことも、会話をすることも、笑顔を見ることも、触れることも…何もかもを諦めていたと云うのに…!

こうして目を合わせ、会話をし、笑顔を見、お前に触れて…この気持ちは…この歯痒さは一体何だ。



「あっ」

先を駆けていた恋次が俺の手を握ったまま倒れそうになる。

「恋次!」

俺は恋次をぐいと引き寄せた。恋次は難なく俺の腕の中に収まった。

「助かった、ありがとう」

恋次は素直に礼を云った。

「…嗚呼」

間近で見る恋次の笑顔が驚くほど綺麗で
恋次の抱き締めた身体が想像よりも温かくて
そして、俺は、この気持ちの正体に気が付いた。



「…恋次」

「何?」

恋次は仮面越しの俺の目を見る。
俺は、仮面をずらして間近にある恋次の唇に口付けた。

「な、なにすんだよ…っ!」

何をされたのかを理解した途端に恋次は赤面した。



「恋次、俺は、お前を愛している」



誰よりも何よりもお前を愛してる。

だから、そんな顔をしないでくれ。

嗚呼、こっちを向いてくれ、お前が愛しすぎるから故に、許して欲しい。


こっちを向いてくれ、俺の愛しい人。




END



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