お題
□主従関係で主の片思い5題/主
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主従関係で主の片思い5題/主
1.馬鹿な真似だと思うだろう? 私は本気だ。
嗚呼―、
私の焦がれる愛しい紅。
私の想いを知ることも無く。
時は静かに過ぎてゆく。
何時もの様に、六番隊の隊首室で私と恋次は書類を片付けて行く。
「隊長これ、終わりました」
「ああ」
恋次の手から書類を受け取り、それに目を通していると恋次の伝令神機が鳴る。
「すみません…」
恋次は小さく謝ると伝令神機を取る。
「はい…もしもし阿散井です。あ、檜佐木さん?」
檜佐木…あの卑猥刺青だな。
私の嫌いな者の一人だ。
「…え?今夜ですか…?用は無いっスけど…」
仕事中に恋次に(しかも私信で)電話してくるな。
「でも…えっと、あの…」
恋次は困った様子で言葉を濁して居た。
「…仕事、有るんで…又後で良いっスか?…あ、はい、それじゃあ、後で……どうもすみません、隊長」
伝令神機を閉じた恋次は苦笑しながら私に謝った。
「…お前は悪くない」
そう云って表情を緩めると恋次は恥ずかし気に微笑んだ。
「有り難う御座います」
「飲みにでも誘われたか?」
「え、あーはい…そうです」
「行くのか?」
「うー…えーっ…と」
恋次は酷く困った顔をして目を泳がせていた。
「…恋次」
恋次の背後に回り後ろから抱き締めた。
「なっ…何ですかっ?」
いきなりで恋次は驚きながら私に問い返した。
「行くな、と云ったらどうする?」
「どーするって云われても…俺の勝手じゃあ…」
私が耳元で囁くと恋次は戸惑いながらそう応えた。
「私がそうして欲しいのだが?」
「はぁ…?あんた、何云ってんすか?」
恋次は苦笑して私の顔を見た。
「馬鹿な真似だと思うだろう? 」
「ええ、思ってますよ」
「だが…残念ながら私は本気だ。
…意味は…分かるな?」
「分かるけど…隊長」
「何だ?」
「…ホントに俺なんかで良いんすか?」
恋次は今にも泣きそうな、嬉しそうな、そんな顔をして笑っていた。
「お前だからこそ、だ」
「それって…喜ぶべき?」
「お前はどうなんだ?恋次」
私が聞くと恋次はこれ以上は無いくらいの笑顔で
「すっげ嬉しい…幸せ」
「当然だ」
恋次を抱き締めている腕に力を込める。
「恋次」
「んー?」
「愛している」
そう呟くと恋次は少し恥ずかし気に笑って。
「俺も…愛してますよ隊長」
と心底幸せそうに云った。
END