novel

□ある晴れた日に
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この世の物とは思い難い、綺麗な透き通る青。

ゆらめく水面にはピンク色をした小さな花びらがふわりと舞い落ちた。


泉の側に心地よい居場所を作ってくれているように木が茂り、その周りを蝶が舞う。まるで泉の美しさを讃えているように。


静かで優しいその場所は誰も犯してはならない聖域に思わざるを得なかった。


「この場所、貴方ほど場違いな人は居ないでしょうね」

小柄な紫の服を身にまとった少年は、嫌悪を隠そうともしないで刺々しく言い放った。

「なんじゃと?ジェー坊!どういう意味じゃ!」

いきり立ってモーゼスはジェイに噛みついた。


「そのままの意味です。どう間違えたら貴方みたいに野蛮でデリカシーもないような人になれるんでしょうね。いっかい死んでやり直したらどうです?」


一気にまくし立てるかのように言い放った。いつもならモーゼスも黙ってはいないのだか、今回ばかりは何も言い返さなかった。

なんだかしっくりこない。

「…らしくないじゃないですか。とうとう頭が狂いましたか?」


この状況に少々苛立ってジェイはさらにまくし立てた。


「いや、どうしてなのかは分からんのじゃが」


モーゼスはゆらめく水面を覗き込みながら呟いた。
「ここにおると怒る気になれんでの」



「!?」

有り得ない。あのバカで脳天気で短気なモーゼスが……
ジェイは完全に拍子抜けしてしまっていた。




「…とか言うと思ったら大間違いじゃー!」



はっと振り向いた時には完全に遅かった。
気づけばバシャーンという派手な音と視界には水しぶきが高く上がっていた。
ひんやり冷たい感覚が、泉に突き落とされたのだという事実を語っていた。

「なっ…何を」


有り得ない。いくら油断していたとは言えモーゼスに嵌められるなんて屈辱的にも程がある。

「くっかっかっか!大成功じゃー♪」

嬉しそうにモーゼスがジェイを見下ろしていた。未だに何が起こったかよく理解できていなかったジェイはただ悔しそうに見上げた。

「どうじゃ!わしはこの作戦を成功させるために昨日一晩寝ずに考えとった!ジェー坊には仮が山ほどあるからのう」


得意げに語るモーゼス。どうやらセネルが集合場所をこの泉にしたときからずっとこの作戦を考えていたらしい。


「あなたには呆れます…暇人も大概にしてくださいね?」


言うと同時にジェイは思い切りモーゼスの足を引っ掛け、泉に引きずり落とた。

「うおおぉ!?なにするんじゃ…」

そして自らはさっと水から上がり爪術を発動した。

「雷電!!」


バチバチバチっと激しい光が水の中を走ったと同時に、断末魔の叫び声が辺りに木霊した。



「ぼくをハメるなんていい度胸です」


まだ収まらぬ怒りを感じつつ水面を再び見つめる。せっかくの静かで神聖な場所が台無しだ。



「んう?ジェージェーなにしてんの?」

そこにやっとノーマやセネルがやってきた。

「おい、なんか浮いてるぞ……」


色黒のモーゼスがさらに黒さを増して水の中にぷかりと浮いていた。
奇妙な光景だ


「ジェイもびしょ濡れじゃないか」

指摘されてはっと我に帰る。
やはりあのモーゼスにやられたてなると気分が悪い。

「水しぶきがかかっただけです。さ、焦げてる人は置いておいて早く行きましょう」

「ん、ああ…」


浮いているモーゼスを横目に皆は次の目的地へと行くことにした。

先頭をずんずん進むジェイにふと認めたくない事実が浮かぶ。
自分は油断していたということ。

なせ油断したのか。
今までなら常に警戒心を持っていたのでこんなことになるはずもなかったのに。
つまりモーゼスに対してもう警戒心がなかったということか…?





「まさか。ありえない」




あんなガサツで無神経なやつ。



「セネルさん達、もう早く行きますよー?」




なにも変わらない。
いつも通りの、晴れた昼下がりだ。





*end



モーゼスを仲間として認め始めたジェイのお話。
ホントは拍手用に書いたのですが長くなりすぎたためにこちらに置きました^^;



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