暁月夜

□a pale moon night
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いつのまにかフラれていたという想い出










月がのぼった






赤い晩方の月






でも、あの人の姿はなくて……












 a pale moon night

      〜朧月夜〜














思いやりでしょうか


それとも


ずるさでしょうか







何も……


あの人は私に


何も言わずに消えてしまった










「あっ起きてもうた?」

「………はい…
市丸さん?誰だって息苦しくなれば起きるっス」

「ハハ、堪忍
あ〜寝顔が可愛かったんよ、そやからついvV」

「そんな事言われても全然嬉しくも何ともないっス…」

「なんや、えらい機嫌悪いなぁ(笑)」











いつものように時は安らかに流れ


やがてくる別れを惜しむことなく


いつものように
にやりと笑ったり


いつものように
少し顔をしかめて


あの人はすこぶる上機嫌だった










「ほな、もう行くわ」

「………市丸さん?」

「…………」










風に遊ばれて
乱れた髪のままで


私を抱き締めたあの人


いつもより力強い抱擁
いつもより明らかに長いだろう抱擁





静寂が二人を覆っていた





其処は無音の世界


あの人が消えるまで


いや


あの人が消えても…










いつのまにか
赤い月は黄色く輝いている





また
あの人のいない夜が来た


それはとても深くて


まるで海の中





あの人を想い出す


あざやかに限りなく


私の中を過ぎ去るソレに
ココロが痛い


どんなことを想い出しても





私は流される


迫りくる波に


受けとめる力のない私は
流されて連れて行かれるままに
身をゆだねる





そして私は
漂いつづける





夜という海のなかを









私が溺れ死なないのは…
いえ
私が溺れ死ねないのは…





きっと





“さいなら”と云われなかったから









思いやりでしょうか?


それとも……


    §fin§

 

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