暁月夜

□amour malheureux〜片想い〜
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もう使われてへん旧隊舎の中庭で
ボクは樹に寄り掛かって天を見上げる





そこに月の姿はあらへん


かわりに雲が覆っとる…





自分の心ん中みたいやと
溜息をついて
ボクは其処を後にする










『おや、ここは君の場所でしたかぁ?』










冷静な表情の裏で
傷みを抱え
涙を隠しとる






浦原さんと出逢った場所を













  amour malheureux
    〜片想い〜

   貴方の横顔に囚われて









ボクの昼寝の場所に先客がおった






その先客の名は





浦原 喜助






「おや、ここは君の場所でしたかぁ?」






十二番隊隊長で技術開発局局長でもあるこの男は
護挺十三隊一番の変人と有名やった






「いや〜、穴場だと思って腰をおろしてみたものの、
何やら人がいた形跡がありまして
ちょっと残念に思ってたところなんですよ」







噂通り変人かどうかはともかく、
よくしゃべる人やと思った







「あっアタシが退散しますから
君はここで昼休みをじっくり堪能してくださいvV」







何に急かされとるのか、
ボクが口をはさむ間もあらへん







「いいっすねぇ〜、
今日は本当にいい天気っス」







見上げると確かに枝の隙間から青い空が覗いていた







「…本当にここはいい、
静かで…、何より私たちの他に人の気配もない」


「…………」







やっとできた間、
そやのにボクは何も言わへんで
ただ、浦原喜助をみつめとった







「人は……アタシのことを変人と言います
いや、人でさえないのかもしれない」








長い間…


浦原喜助はボクではなく、
何もあらへん宙を見据えていた






そして息をもらすとうつむいて言った







「……破綻しているそうです
アタシの考えも……心も…………」







ボクがなんも言わんとみつめとったのは
浦原喜助がやさしく…でも憂いにみちた微笑みを浮かべていたから





その横顔はどこか心細げでホンマに……
今にも消えてまいそうにはかなかった







「…………っ」







不思議な感覚やった







大きな力のかたまりに飲み込まれてまうようなソレに
ボクは歯を食い縛り、手を血がにじむほど強う握った





“抱き締めたい”という想い





ボクは彼をこの腕に抱いて
めちゃくちゃに掻き乱したかった





欲しかった……





その髪がその瞳がその唇がその声がその胸が……
笑顔、しぐさ、躰、全てを







(ダメや……)







ボクの自制心
















怯えという弱さ







「それでは失礼します」







浦原喜助は溜息と共に立ち上がり
風の中に消えた





消える瞬間、
ボクは彼に初めて声をかけた…










「大丈夫なん?
つらいんやろ…ホンマは」








見ぇへんなる最後の一瞬

浦原喜助は確かにボクん方に振り向いた



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