暁月夜

□やさしい月夜
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薄く開いている障子の隙間から少し冷えた外気が入り込んで室内の温度を下げてゆく






「いい風ですね、市丸さん」






障子をゆっくりと開けながら、あの人、浦原さんは云うた
微かに微笑うあの人
せやけど、その笑みはどこか儚い




淡い月の光が、あの人の琥珀色の髪を愛でるように縁取る
見惚れてまう程、綺麗過ぎて無意識に言葉を紡いだ






「……キレイ、やな」






すぐに我に返る自分、もしかしなくても仄かに赤面しとる自分…

気付かれる前に、傍らに寄り添った




浦原さんはボクをちらりとみやる
そしてすぐに視線をそらして夜空を見上げながら云うた






「たしかに綺麗なお月様ですね」


「…………」






キミのことなんやけど


そう云うのもなんや、阿呆らしゅうてボクはそっと彼の肩を抱き寄せた






「……………」


「……………」


「……………」


「…………何や?」






ボクをじっと見つめて何も云わへんキミ

視線が痛くてたまらんかったボクは、降参して彼を見やる




そしたらキミは微笑ってた

珍しくボクを見て、ボクに微笑を向けとった






「今日の貴方は、大人しいっスね、市丸さん」






ホンマ嬉しそうに笑うその人に
更に毒気を抜かれてボクはため息を吐いた






「せめて優しいて云うてや」






首筋に顔を埋めて
くすくすと いまだに笑う
キミという存在が
この上なく 愛しい




やさしい月夜────


    吐in


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