暁月夜
□漆黒華
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『……どうしたんです、それ』
『…………別にいらへんなら捨てるだけや』
『あ、アタシにっスか?!』
『他に誰が居んねん』
いつもながら少々仏頂面で、彼は私に一輪の白い小さな花を差し出した
摘んで懐に入れていたのだろうか、押されて少しひしゃげてしまった花―――それに私と視線を合わせようとしない市丸さん
そのふたつを交互に見比べて、なぜか笑いが込み上げて私が吹き出すと
市丸さんのこめかみがピクッと動いたのが視界に入った
漆黒華
「あれ、お出かけですか市丸隊長」
ボクの副官はホンマに鋭い
「あ、廁なんて嘘は間に合ってますので」
まだなんも云うてないんやけど……
「……わかりました、」
せやから、何も云うてへんて
「まぁ確かに最近はずっとお仕事でしたしね、どうぞゆっくり休んできてください
それにしても、どんな方なのか気になりますね…ほら市丸隊長、帰ってくると大概上機嫌で仕事もばっちりこなすじゃないですか!
もう何度それに助けられたことか!!僕、涙が出るほど嬉しいです――――いいですか市丸隊長、絶対にその女性を離してはいけませんよ」
別にそこまで力説せんでもええやん…それにいつボクが女に逢うてるなんて云うた?
「そうだ!たまには花なんて贈ったらどうです?絶対に喜ばれますよ」
…………
「眉間に皺寄せて、いい男が台無しですよ?どうぞ道中お気をつけて、いってらっしゃい市丸隊長」
***
穿界門へのみちすがら、どうしても吐き出したい違和感に悩む市丸
ふと下を見やると、小さい花が可憐に咲き誇っていた
――――こないな道端に咲くやなんてアホやなぁ、踏まれて終(シマ)いやで
―― ぷちっ ――
市丸は花を摘みとると、胸にそっとしまって穿界門へとまた歩を進めた
そして歩きながら、呆れるように鼻で笑うと
「せやから男に花おくってどないすんねんっ!!」
遂にその違和感を口に出した
それでも、彼に贈るだろうその花を落とさぬように大事に運ぶ市丸
そんな自分が哀しかったりもした―――