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□ばらの花/1
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そのおぞましい表情を見た途端、なんだかとんでもなく許せない気分になって、こいつの何もかもがひたすら許せない、そんな気持ちになって、気付いたら首を絞めていた。
弾かれるように手を離した。
激しく咳き込む様子を見て、冷や汗が背中を伝う。
自分がやったことにぞっとした。
それでも罪悪感だけは湧いてこなかった。
憎んでいるならどうして傍にいるのだろう。
昨日の夜、向かい合って穏やかに食事をした。
長く伸びた前髪を切ってやると俺が言って、結構だと奴が応じて、テーブルから身を乗り出して無理矢理その髪に触れた。心底嫌そうに眉を寄せて俺の手を払いのける仕草に、憎しみなんて微塵も感じられるはずが無かった。
奴が冗談を言って、それが全く笑えない冗談で、むしろその笑えなさがおかしくて、おかしすぎて。正直食べていたものを戻すかと思うほど、俺は笑った。
その夜があまりにも楽しかったから、花を買ったのだ。
花なんてあいつには全く似つかわしくないと、そんな浮き足立った想いだけで他に何も考えていなかった。
だから、あんな顔を見せられた時、我を忘れた。
あんな
本当に嬉しそうな、ほころぶような奴の笑顔。
時計の音が耳に戻ってくる。
隆一は床に横たわったまま、顔だけこちらに向けている。
俺が首を絞めたせいか生理的な涙が滲んで、真っ黒な瞳が今はぬめるような光を放っていた。
無機質なのにどこか哀しげな、俺の求める、奴の眼だ。
ずっと、そんな顔で俺を見てほしい。
床に散らばった花弁を拾い上げて、薄く渇いた唇に押し当ててやった。
奴は儚く微笑んで、真紅の欠片ごと俺の指を噛んだ。
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