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□凍る幸
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気付くと、時計が止まっていた。
「隆ちゃんが止めたの?」
尋ねると、彼は全くの無反応だった。
隆一にとって、この部屋の時計の存在は、どうでもいいことであるらしい。
彼が止めたのか、時計が勝手に止まったのか、真実はわからなかったけれど。
僕の言葉に何も反応しない、彼の空虚でうつくしい横顔を見たとき
ある冬の宵、何気ない人々の、何気ない言葉に傷付いて
泣きながら家路についた日のことを思い出した。
存在への憎悪に、とり憑かれていた日のことを思い出した。
君と出逢う、ずっとずっと前の話だ。
この部屋の時計は止まったまま、きっともう、動かない。
君の無関心さが、僕の醜さを許す気がする。
「静かだね」
君は頷く。
「幸せだね」
頷く。
やっぱり君が、時計を止めたんだ。
僕は、こっそりそう思うことに決めながら、君の髪を撫でている。
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