JR@

□は ざ 間 の ひ と
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断ってしまおうかとも。考えた。

当然。断るべきだった。

適当な理由なら、いくらでもある。仕事が忙しいから。飲みに行くから。女が来るから。なんとでも言える。

それなのに。

結局。俺は。






インターホンが鳴った。

ドアを開けると、マフラーに鼻を埋めるようにして隆一が立っている。

「外、すごい寒いよ。」

鼻と頬を赤くして。屈託無く笑う隆一は。

杉と、あんなことをしていたとは。到底思えない。

それくらい完璧に。俺の中にかつてあった。「隆一」のイメージ、そのままを体現していた。

「なんだよ。突然。」

言ってしまってから。ぶっきらぼうすぎたかと、少し焦る。

気付かれたくはなかった。

俺の。奴に対する嫌悪感には。

「中で話すから。早くドア閉めてよ。」

動じることなく、冷たい外気とともに俺の横をすり抜ける。

舌打ちが洩れた。

許可してもいないのに。隆一はさっさとコートを脱いでは、ソファの上に陣取って脚を伸ばしている。

コーヒーを出す気にもなれない。

会話をするのも苦痛だ。

「で。話ってなんだよ。」

何気ない風を装って問い尋ねてはみたものの。察しはついている。

あの夜のこと以外に。無い。

「俺、甘いの飲みたいな。ミルクティーとか。」

「んなもん、ねえって。」

「ホットワインとか。カルーアでもいいけど。」

「いい加減にしろよ。」

苛立ちのあまり。声が大きくなった。

「もったいぶってんなよ。お前も暇じゃねえんだろ?言いたいことあんなら、さっさと言えよ。」

冷静に弾き出したはずの台詞は。

音になると。思いのほか、強く聞こえる。

凍り付いたような沈黙が降って。

隆一の頬から。トレードマークとも言える笑みが消えた。

「そっちこそ。言いたいことあるなら、言えばいいのに。」

「なんのことだよ。」

「わかってるくせに。」

ぞくりとするような。冷酷な眼差しで。

「Jってさ。自分で思ってるよりずっと、考えてること顔に出てるから。気を付けた方がいいよ。そういうの。」

「だから。なんの」

「ほら。その眼。」

隆一はソファに寝転んだまま。立ち尽くす俺を、まっすぐに見上げてくる。

「俺のこと。汚いって言ってる。」

「思ってねえよ。そんなこと。」

「嘘つき。」

「嘘じゃねえ。なんでお前に、俺の考えてることがわかるんだよ。」

「わかるよ。だって。」

俺は。ずっと。

Jのこと。見てたから。






熱っぽく囁かれた。その台詞に。

俺は。耳を疑った。






「Jってまっすぐで、強くて。俺には無いものたくさん持ってて。でも。」

何も言えなくなった。俺から視線をはずして。隆一は静かに告げる。

「その分、柔軟性に欠けるっていうか。視野が狭いところもあるよね。」

図星だ。

「だから。同性愛とかそういうの。頭がいくら受け容れようと頑張ってても、心が拒絶するんだろうなって。覚悟はしてた。」

当たっている。怖いくらいに。

見抜かれている。何もかも。

「今日、ここに来たのはね。あの日見たこと、誰にも言わないでって。頼むつもりだったから。」

「俺は・・・言わねえよ。」

言えるわけがない。誰にも。

「うん。知ってる。でも。Jと話がしたかった。」

罪悪感が心臓を突き刺す。

「なのにさ。のっけから、ああいう眼で見られたら。正直。きついよ。」

「無意識だ・・・悪い。」

「無意識ってさ。本心だってことだよね。」

「おい。揚げ足取んなって。」

「俺のこと。気持ち悪いと思った?汚いと思った?」

隆一の身体がゆらりと蠢いて。立ち上がる。

「一緒にライブもやりたくない?顔も見たくない?」

やめてくれ。

「俺のこと」

もう。

「きらいに、なった?」






真っ黒な瞳に。至近距離で、射抜かれる。

どうしてか。突き放すことができなかった。

「俺が。杉ちゃんとしてるところ見て。どう思ったの?」

「別に。」

「下手すぎるよ。嘘。」

意地の悪い笑みだ。

「嫉妬した?」

「んなわけ」

「じゃあ。自分もしたいって、思った?」

それは。嘲笑のようにも響いて。

頭に。血が上った。

「ふざけんな。俺はお前らとは違うんだよ。」

誰がするか。と、吐き捨てると。

「やっと。本音が出た。」

馬鹿にするような口調で返される。

カッとなって。奴の襟首を掴んだ。

ムカついて、仕方がない。

どうして俺が。こいつに責められなければならないんだろう。

見たくて、見てしまったわけじゃない。

あんなこと。知りたかったわけじゃない。

おかしいのは、俺じゃない。こいつらだってのに。

頭が。おかしいのは。

「してあげても、いいのに。」

セックス。

その一言で。

怒りを抑え込んでいた。最後の堤防が決壊するのを感じて。

殴ってしまう。

直感的に。そう悟ったのに。

気が付いたら。俺は。

襟を掴み上げたまま。隆一の唇を。塞いでいた。







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