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□ 【 永 訣 】/【レイトショウ】
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【 レイトショウ 】
隆一へ。
もう、届かないのかもしれねえけど。
俺は、この手紙を書いている。
昔。ふたりで。
夜中に、映画。見に行ったよな。
惚れた女の裏切りで。殺人の濡れ衣を着せられた、主人公が。
逃げようとして。屋根から、墜落死する。
ラストシーンで。
俺の手を、掴んできた。お前の指先は。
凍えたように、冷えきって。震えていた。
俺は。その手を。
振り払うことが、できずに。
スクリーンの中で、死んだ。主人公の、仕立屋のように。
蒼く、無感情な肌をした。お前を、抱きしめて。
そのまま、シーツの上に。深く、沈んだ。
一度きりの。
その、つもりだったのに。
それが。
すべての、始まりになった。
お前は。
何も、言わずに。
死んだような、眼をして。
それでも。
まだ、何かを。待ち侘びているのだと。
確かに。そう、感じられた。
あの日。
俺は。お前が、求めているであろう。その。
たった、ひとつの。希望になりたい、と。
願ったんだ。
お前は、何が苦しかったのか。
正直、俺は。お前の痛みを。
お前が感じるのと、同じように。共有することは、できない。
でも。お前の言う通り。
理解しようとは、していたつもりだ。
そのことが、お前を余計に深く。傷付けてしまったんだとしたら。
きっと、間違っていたのは。俺の方だったんだろう。
お前は、俺のことを。
完璧な人間だと、言った。
何もかもを、手にしている。俺の。
傍にいるのは。つらいと、言った。
何も無い、自分を。突き付けられるようだ、と。
そう、見えて。いただけだ。
実際、俺は。
一番、手に入れたかったものを。なくしてしまった。
俺にとって。何よりも、大切なのは。
隆。
お前だけ、だった。
何度も。好きだと、告げた。
くそ恥ずかしいってのに。お前が、望むならと。
愛してる、とも。告げた。
お前は、ことごとく。それを、否定した。
そんな時。俺が、どんな気持ちだったのか。
お前には。わからないんだろう。
結局、お前は。
自分が、救われたかった。だけなんだ。
お前が、愛してるのは。俺じゃない。
他でもない。お前自身、だったんだ。
そんな。身勝手な、お前でも。
本当に。好きだった。
こんなに簡単なことも、わからねえなんて。
大馬鹿野郎だよ。お前は。
そして。
そんな、人間を。こうして、追いかけている。俺も。
救いようの無い。馬鹿なんだろう。
あの時。
俺が、お前を。殴ったのも。
お前が。青色のフェンスの、その向こうへと。
足を踏み出して、しまうことが。
恐ろしくて。とても、耐えられなかったからだ。
抱きしめてやれば。よかったのかも、しれない。
お前は。そのままで、いいのだと。
認めてやれば。よかったのかも、しれない。
俺には、それが。できなかった。
お前の、望む形で。お前を、救ってやることが。
できなかった。
謝らなきゃいけないのは。
俺の方、なんだ。
本当は。気付いてた。
俺と、寝るたびに。お前が。
どうしようもないくらい。死にたくなる。
なんてことを。
本当は、ずっと。
知って、いたんだ。
俺を、傷付けないように。
うまく。隠していたつもりだったんだろう。
でも。
俺には、わかる。
どれだけ。一緒にいたと、思ってるんだ。
一度だけ。
お前の口から。聞いた。
俺の、傍にいると。
自分が、今まで。どうやって、生きてきたのか。
わからなくなる、と。
忘れてしまえば、よかったんだ。
全部、白紙にして。それで。
新しく。一から、やり直すことだって。できたんだ。
人は。変わることが、できるんだと。
教えて、やりたかった。
だから。
叫んで、ほしかった。
助けを、求めているのなら。その心を。
何もかも。ぶちまけて、ほしかった。
お前が、いなくなった後で。
何度も、何度も。考えた。
お前が、俺に。さらけ出せなかった、理由を。
単に。俺を、傷付けたくなかった。と、いうだけじゃなく。
俺に失望され、捨てられるのが。
怖かったから、じゃないのかと。
そう。考えて、しまうのは。
自惚れが、すぎるだろうか。
俺が、お前を。必要としているように。
お前にとっても。俺が、まだ。必要なんだと。
そんな。埒の無い、希望を。
捨てきれないでいる。
今も。
情けねえと、思うけど。
俺には。こんなことくらいしか、言えない。
もう一度、だけでもいい。
話が、したい。
お前に。
会いたい。
携帯も繋がらねえから。番号だけ、書いておく。
電話、待ってる。
ずっと。
待ってる、から。
畜生。
わかんねえよ。
教えてくれ。
どう、償えば。 「それ」 は。
お前の手を。離してくれるんだろう。
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