IR続き物

□ @ チョコレートファウンテン
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彼女と行ったホテルのレストランで、どろどろと流れ落ちるチョコレートの泉を見た。

そこに次々と突っ込まれる苺やらバナナやらを観察しながら、このどろどろしたやつを君の白い身体に塗りたくったら最高に面白いだろうなあと思ったなんて、そんなこと、マジで変態臭くて誰にも言えない。





「食べる?」

控え室で二人になった途端、無邪気にそう言いながらチョコを差し出してくるので、昨夜の不穏な妄想がよもや筒抜けだったのではと、内臓が口から飛び出しそうになった。

「いや・・・いい。」

「そう?」

隆一は口いっぱいにばくばくとチョコの欠片を頬張りながら、他意の無い目で俺を見ている。

上半分がピンク、下半分がこげ茶色。アポロの偽物みたいなやつだ。安っぽい苺香料の匂いが漂ってくる。

ガキみたいなセレクトだな。つかその間断無く貪り食う姿、百年の恋も冷める。どんだけ腹減ってたんだ、と半ば呆れてすっかり油断していたら。

なんてことだ。

気付いてしまった。





最悪だ。 不意打ちにもほどがある。





白くて薄い唇の端に、溶けてくっついたチョコレート。





行儀の悪い食い方するからだ、とか。みっともないから早く拭けよ、とか。違う。今はそんな問題じゃなくて。

ああ。

あれ食べたい。いや、舐めたい。





キスしたいと思ったらそれは恋愛感情だ、なんて。どこで読んだのかは忘れたけれど。じゃあ、あの薄い唇の端に付いたチョコを舐めたいなんて気持ちは一体なんなんだろう。

柔らかそうな粘膜ごと食いちぎってやりたいなんて、そんな衝動はどこから来るんだろう。

ちゃんと彼女だっているし、ちゃんと恋愛だってしてる。恋愛感情がどんなものかくらいわかってる。たぶん。

だから、これは違うと思う。うまく言えないけど、もっと、ずっと凶暴な感じだ。

そうだ。ひょっとしたらこれは恋愛感情なんてものじゃなく、食欲なんじゃないだろうか。

そんなに腹は減ってないはずだけど。いや、そもそも甘いものなんて、あんまり好きじゃないし。

むしろ、苦手だし。

でも、欲しい。

舐めたい。

そんなことをぐるぐる考えていたら

「いのちゃん、ほんとは食べたいんでしょ。」

意地の悪い笑みを隆一が浮かべていた。

「違うって。」

「ほんと?なあんか、物欲しそうな目してる。」

そう言って、無理矢理口に捩じ込むような仕草をするから、今度は素直に受け取り口に含んだ。

甘い。

けれどその過剰な甘ったるさは、あっという間に口内の熱でほどけて消えた。

残ったのはかすかな余韻だ。舌の上に。喉の奥に。

この部屋の空気に。

「隆ちゃん。今度俺の部屋で飲まない?」

唐突すぎるそんな誘い文句も、胸焼けしそうなこの部屋の空気のせいにしてしまえば、全部許される気がして。

「二人で?」

「ふたりで。」

俺の顔をじっと見て、少し驚いたような素振りを見せたけど、そんなのは本当に一瞬で

「いいね。」

偽アポロが儚く溶けて消えたように、隆一の顔もふわりと崩れて嬉しそうに綻んだ。

「おみやげにチョコレート持ってこうかなあ。」

この部屋にあるどんなものよりも甘ったるく胸焼けしそうな声を、馬鹿だなあと思いながら聞いている。

俺が頭の中で、君の身体にどんなことしてるか知ったらどん引きするくせに。

すっかり騙されて。喜んじゃって。かわいそうだよなあ。

心底哀れに思いながら、君の唇の端に指先を伸ばした。


「ふたりでチョコレートファウンテンなんてのも、いいね。」









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