IR続き物

□ F ウェンディ
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君と人には言えないようなことをしてから数週間。時間が経つのってほんと早い。

仕事で何度か顔を合わせる機会はあったけれど。その都度いつも通り、なんの問題も無く。当り障りの無い会話だけして別れる。

そう。何もかも、いつも通り。

たったひとつ。ふたりだけで食事に出ることが無くなった以外は。

あえて不本意な言い方すると、君に『告った』喫茶店。あそこにも、もうずっと行ってない。

別に。避けてたわけじゃない。

白状してしまうと。俺はただ怖かった。

ふたりきりになってしまったら。あの静謐な空気の底で。君が何を言い出すか。それを聞いた自分が、何をしでかすのか。

全然、予想がつかなくて。

自分のことなのにわからないなんて、おかしな話だと思う。でも君に関することになると、いつだって俺はわからなくなってしまう。

それだけが。怖い。

もし君と、少しの間だけでも距離をとることができたら。世界は何もかも、まるで夢だったみたいに元に戻るんじゃないかって。馬鹿みたいだけど、淡い期待があったことは否定しない。

それくらいに君とのあれは。本当に突然で。一応創作を生業としている俺の想像すら、遥かに超越した出来事で。

とっくの昔に空なんか飛べなくなってしまったいい大人の常識を、根底から覆すには充分すぎる。衝撃の事態だったわけで。

もうピーターパンか君か。ネバーランドはすぐそこなんじゃないかってくらい。お伽噺でもありえないような。超強引な展開で。

まあ要するに。何が言いたいのかっていうと。

とにかく頭の整理がつくまでは。隆一とふたりきりになるのは、限りなくまずいということだ。

それだけは、間違っていないと思う。

自信がある。すごく。





そんな風に。なんとなく君と離れている間、俺が何をしていたかと言えば。また別の意味で、人には到底言えないことに勤しんでいた。

自分がホモだなんて、未だに信じられない俺は。とりあえず同性愛について調べてみたりして。

ネット上の学術的なページから、いわゆる「ゲイサイト」と呼ばれるものまで。

専門的なゲイの定義なんて。読んでも「ふうん。」ってな感じだったけれど。男同士のセックスのやり方には大いに興味を惹かれるものがあった。

いや別に。自分がやりたいとかじゃなくて。

そうじゃなくて。純粋な疑問に由来する好奇心だ。

だって。挿れるとこなんて、あそこしか無いわけだし。そこだって、本来挿れる場所じゃないわけだし。

詳しく知れば知るほど。なんだか、かなり大変そうだと思う。

そうまでしてやりたいのかな。

口とか手じゃ駄目なんだろうか。

男同士でも。好きになったら抱きたいって。当たり前のように、セックスしたいって。思ったりするんだろうか。

ネット上のホモエロ動画もいくつか見た。気持ち悪いとまでは思わなかったけれど、特別興奮なんてしなかった。

ただその中に。色白で小柄で黒髪で。しなやかな印象の、若い男が主人公のストーリーがあって。

彼がどんな目に遭うのか、気になって仕方無かったから。

結局。それは最後まで見てしまった。

まあ。見終わった後で。少しだけ後悔したけど。

友人(勿論男だ)の家に遊びに行った主人公が、その友人にいきなり迫られて、犯されて。最後はこれでもかってくらい喘がされて、いかされて終わる。

脈絡も無く、突然やり始めるだけの。ぶっちゃけ男女もののアダルト動画と大差無い代物だった。

でも。

出演している男優が、ごくごく普通のどこにでもいるような。特に顔が良いわけでもマッチョでもない。そこら辺を並んで歩いてそうな、平凡な容姿と雰囲気を持った二人で。それが妙に生々しくて。現実感があって。

何より。主人公の容貌が、どこか君のことを思い起こさせて。

もちろん。顔は全然似てないんだけど。身体つきというか。全体の雰囲気というか。

こんなこと思ってるのがバレたら、君のファンに殺されるよな。

君がホモエロ動画に出てくる男優に似てるなんて。

世の中にテレパシーとか、精神世界なんて無くてよかった。

こんな危険思想。バレた時点で、即行死刑宣告間違い無い。





君は。どんな風に奥さんのことを抱くんだろう。

ふと、そんなことを考えた。

他人のセックスなんて興味無いけど。でも。

俺にあんなことをした君だって、男なわけで。

結婚してるっていうからには、やることやってるんだろうし。

君のことだから。きっと優しくて思いやりのある。丁寧なセックスをするんだろうな。

それが真心からの行為なのかは、相変わらずわからないけど。

どんなことであれ。君は人を傷付けることに慣れてないから。きっとそうする。

自分が我慢しても。奥さんのこと気遣って。

相手を気持ち良くするために。指とか舌とか。腰とか。全部使って。

汗だくになりながら。懸命に動かして。

きっと。俺のを咥えた時みたいに。必死で。







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