IR続き物

□ H'ペパロニ・ピッツァ
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ふたりで迎えた初めての朝。

ペパロニが皿の上に落ちてから。たっぷり数十秒は間を置いて。

君の時間は。ようやくその歩みを再開した。

「無理、してない?」

まず最初に答じゃなくて。そんな風に俺のことを気遣って見せる君に。

俺は。自然に零れた笑みのまま。

「してるかも。」

「じゃあ。なんで。」

「無理してでも。したいって。思ったから。」

そんな理由じゃ。だめなのかな。

君はいまいち。納得してない顔つきだった。

本当は。様々な紆余曲折を経て。辿り付いた結論だったりするわけだけど。

全部を君に説明するのは。いくらなんでも。こっ恥ずかしいし。

何より。俺の勝手な思い込みを。君にまで背負わせることはしたくない。

でも。君だって。理由はどうあれ。

昨日は。俺としたいって。

そう思ったから。あんな行動に出たんじゃないんだろうか。

なのに君は。深刻な表情を崩さないままで。

「俺。男だし。わかってると思うけど。」

そんなこと。今更だ。

「うまくいかないかもしれないし。」

「うん。」

「はじめてだし。」

「俺も。はじめてだよ。」

君の指先は。チーズの脂でぎらついて。端から見てもぬるぬるして。光ってる。

つくづく。朝からするような話題じゃないよな。こんなの。

チーズこってりのペパロニピザと同じくらい。さわやかな朝食風景にはふさわしくない。

もし。タイミングの問題で拒絶されるとしたら。

それはそれで。ちょっと。いや。

かなり相当。へこむ。

だけど。今言わないと。二度と言えなくなってしまうかもしれないって。

そんな気がしたんだから。仕方ない。

ともあれ。君を困らせるなんていう展開は。全く本意じゃないわけで。

どうにかうまいフォローはできないかと。考えを巡らせていたら。

君が。まるで独り言みたいに。

今にも。消え入りそうな声で。

「しても。よくないかもしれない。」

そう。付け加えて。

ゆっくりと。睫毛を伏せた。

その頬が。なんだか。うっすら。赤みを帯びているようにも見えて。

昨夜は自分から。あんな大胆な行動に及んでおきながら。

今になって。言葉にするのが死ぬほど恥ずかしいみたいな素振りを見せるなんて。

反則だと思う。

ものすごい勢いで顔が熱くなるのが。自分でもわかるくらいに。

俺は君に感化されて。

濃厚で甘ったるい朝の食卓に。胸焼けしそうな。自制心なんて消し飛んでしまいそうな。

そんなしあわせを覚えて。

もう。我慢できずに。

「かわいい。」

なんて。

君が思わず「はあ?」とかいう。およそ君らしくもない間の抜けた返事を発してしまうくらい。

あまりに唐突で。なんの脈絡も無い。けれども。とびっきり素直な感想を洩らしてしまった。

君は心底呆れた様子で。わざとらしくため息をついて。二切れ目のピザに噛り付く。

それでも。赤くなった頬と耳は隠しようが無いから。どう見ても恥ずかしさと照れをごまかしてるようにしか見えない、君の唇の動きに。

俺は見とれて。

今度は心の中だけで。もう一度。同じ台詞を噛み締めてみることにした。









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