IR続き物

□ K 僕たちの居た未来/1
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どうでもいいことかもしれないけれど。後で、聞いた話。

君は、マカロンなんて全然好きじゃなくて。むしろ、嫌いで。

だから。一個千円近くもする、バカみたいに高いそれを。

俺への嫌がらせのつもりで、わざわざ持ってきたらしいのだ。

呆れる気力もそがれるくらい、子供じみた復讐だけど。

でも。

そんな地味な嫌がらせをしてしまう、君のこと。

俺は、嫌いじゃない。

むしろ。かわいいとさえ、思ってしまう。

困ったものだ。マジで。






結局、その日は。

マカロンどころじゃ、なかったし。






玄関を入るなり。まだ、ドアも閉まらないうちに。

俺と君は。唇をぶつけ合うような、キスをした。

左手で、君の頬を撫でながら。右手で、手探りに鍵をかける。

どちらからともなく、舌を絡め合って。

さっきの駐車場でのキスより、もっともっと。深くまで、求めた。

意外って言うと、おかしいかもしれないけれど。

エレベーターの中までは、ものすごく、おどおどした様子だったのに。

シャツの裾から、手を突っ込もうとしてきたのは。やっぱり、君が先だった。

はじめて。同じベッドで、寝た時みたいに。

そう言えば、ふたりとも。まだ靴も、脱いでいない。

気付いたのを、きっかけに。ちゃんと、ベッドまで移動することにして。

俺は。君の手を、引いた。

明かりの無い寝室で。ふざけるみたいに、シーツの上へ倒れ込む。

サイドの照明を、灯したら。君の顔が、ぼんやりと滲んで、浮かぶ。

かすかに、微笑みながらも。かなり、緊張しているように見えた。

当たり前だ。

俺だって。心臓が、すごい速さで鳴っている。

抱き寄せて。さらさらと流れる黒髪に、鼻を埋める。

洗い立ての、シャンプーみたいな香がした。

「隆ちゃん。シャワー、浴びてきた?」

咄嗟に、尋ねてしまえば。君の目元が、うっすらと赤く染まる。

失敗だったかなって、思うと同時に。

嬉しくて。笑みが、零れた。

「俺も。さっき、浴びた。」

正直に。自分から、打ち明けて。

今度は、ふたりして。少し笑った。

このまま。すぐ抱き合えるのが、嬉しいような。

がっつきすぎて。照れくさいような、気持ちになる。

こんなの。

誰とでも分け合えるような、感覚じゃない。

重ねた唇から、君の感情が流れ込んでくる。

ふたりで訪れた、あの海の。朱い青さが、溢れてくる。

圧倒的な、孤独と。

ほんの少しの、希望。

こんなにも、お互いが必要で。ずっと大切にしまっておいた約束を、叶えようとしている。

そんな時。

しあわせだって。笑えばいいのに。

どうして。泣きたくなるんだろう。

君の唇には。やっぱり、涙の記憶が残されてるみたいで。

今だけは。ぜんぶ、拭ってやりたくて。

ただ、夢中で。柔らかな粘膜を、なぞった。

唾液が、溢れそうで。苦しくて。一度離れて覗き込んだ、君の眼は。

淡い光を透かして。静かだけれど、その奥には確かに。差し伸べられる欲望が、隠れてる気がして。

めちゃくちゃに、されたいって。

そう。待ち望んでるようにも、見えて。

たまらなくなって。

小さな頭を包んで。頬や、額や。顔中に、口付ける。

耳から首筋に、キスを移して。舌で舐め上げると。

薄い唇から、熱い吐息が零れ落ちた。

その声は。信じられないくらい、いやらしくて。甘ったるくて。

もう。誘われてるようにしか、感じられなくて。

シャツのボタンをはずす指先が、もどかしくなるくらい。

早く、君に触りたくて。頭の中が、ぐちゃぐちゃになる。

すぐに、君も。俺の服に、手を伸ばしてくれて。

苦労しながら。お互いの着ている物を、脱がせ合った。

ベルトに手をかけて。腰骨の辺りに、指先を滑り込ませた途端。

慌てたみたいに。君の手のひらが、俺の手の甲に重ねられる。

「自分で、脱ぐから。」

小さく、呟いてから。身を起こす。

下着とか。脱がされるのが、恥ずかしいのかもしれない。

腕に残っていた、シャツの袖が抜かれて。つるりと丸い肩の線が、剥き出しになった。

そこから先は、なんとなく。眼で追うのも、悪い気がして。

らしくないとは思ったけれど。さり気無く、君に背を向けてから。

自分も。残りの服を、脱ぐことにした。








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