IR続き物

□ L 僕たちの居た未来/2
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今でもね。時々、思い出すんだよ。

俺は、君のこと。

ちゃんと。汚してあげられたのかなって。

君が、君のままでいいんだってこと。

正しく。伝えてあげられたのかなって。






ローションに濡れた指で、君の奥深くを探る。

痛みを与えてしまうことを、ためらう気持ちが無いわけじゃなかった。

でも。

君が、赦してくれたから。

望んでくれたから。

指先が熱さを拾って、濡れた音を立てるたび。君の眉は、苦しそうに歪む。

「痛い?」

尋ねたら、首を振る。

君が、必死で力を抜いて。受け容れようとしてるのが、わかるのに。

どうしたら、気持ち良くしてあげられるのかが覚束なくて。焦る。

もどかしい。

君の身体の内側を、直に触ってるなんて。

生々しくて。いやらしくて。

気が、狂いそうになる。

あたたかい。君のなか。

脈打つ血液と。君のいのち。

すべてが、こんなにもいとおしくて。

失いたくない。

そんな感情とは、逆行するみたいに。

俺は。君の身体に、苦痛を強いている。

ひどいことを、していると思う。

もし。同じことを、隆一がしたいと言ったら。

俺は、許してやれるんだろうか。

人差し指と中指で、やみくもに内側を擦っていると。

俺の名前を呼ぶ、君の声が聞こえた。

「もう。へいきだから。」

それが、合図なんだってことを。すぐにはわからなくて。

「いいよ。」

君が腕を掴んできて、初めて。その意味を理解して。

泣きたくなるような衝動が、胸を突く。

「このままで、いい?」

今更かもしれないけれど。避妊具なんて用意してないことに、気付いた。

彼女は、ピルを飲んでいたはずだから。

君は、あいまいに頷いたけれど。本当は、どういう意味かわかっていなかったかもしれない。

冷静でいたはずの、自分だって。実際、それ以上確認する余裕なんか無かった。

赤ちゃんみたいに、両脚を持ち上げて。

君のそこに、自分の腰を押し付けて。

そっと。潜り込ませてみる。

途端に。ぎゅっと、力が入るのを感じる。

無理だと思って。一旦、身体を引いた。

「ごめん。」

君はひどく焦った顔をして、謝る。

「ほんとに、大丈夫?」

こんなところに、自分のが入るなんて思えなくて。

やめようか、と言いかけて。すがるような眼差しが眼に入って。呑み込んでしまった。

もう一度。ゆっくり。

せめて、安心させてあげたいから。ちゃんと視線を繋げて。逸らさない。

痛いよね。

苦しいよね。

だけど。信じてる。

君も。こうしたかったんだって。

そうじゃなくちゃ。していない。

全部を受け容れてもらうまでには、ひどく時間がかかった。

君の髪や頬を、あやすように撫でながら。

ようやくできた時には。ふたりとも、汗びっしょりになっていた。

苦しげな呼吸に胸を上下させる、君の頭を撫でていると。

セックスと言うよりも。熱にうなされる子供を、介抱しているような気分になる。

お互いの息が、整うのを待って。

少しは落ち着いたと思う頃。ゆっくりと、動いてみる。

「いたい。」

さっきまで。絶対に、痛いとは言わなかった隆一が。

初めて。切羽詰まった悲鳴を上げた。

どきりとして、動きを止める。

君の唇は、少し青ざめて見えた。

「痛い?」

「うん。」

君は、絞り出すように。弱々しく、頷いた。

「これ以上は、無理?」

「動かすのは・・・無理かも。」

「そう。」

「ごめん。」

「謝んなくて、いいよ。」

そう言って。

君の額に丸く浮かんだ汗を、指先で拭う。

不思議なことかもしれないけれど。

俺は。嬉しかった。

残念だという気持ちより。

君が、本心を打ち明けてくれたことが。嬉しくて。

素直な感情を、声に出してくれたことが。

こんな時だってのに。どうしようもなく、嬉しいと感じて。

ああ。俺が聞きたかったのは。

こんな。俺だけに向けられる、君の声だったんだって。

それに。射精することが、目的だったわけじゃない。

ちゃんと、伝わってほしかった。

「動かないから。もう少し、このままでいてもいい?」

俺の頼みに、君は一瞬、驚いたような顔をしたけれど。

「いいよ。」

微笑んでくれて。安心した。

あと少しだけ。

君とひとつに、結ばれたままでいたい。

「どんな感じ?」

「ん?」

「なか、どんなかなって。」

問い尋ねる君は、不安とも期待とも違う。すごくおかしな顔をしていた。

「きもちいいよ。」

正直に答えたのに。なぜか、複雑な表情で黙り込んでしまう。

余計なことは、考えさせたくない。

手を伸ばして、君の髪の先をなぞった。

これまで、幾度と無くしてきたように。他愛ない触れ方で。

じっと。眼を逸らさずに。

ぴったり密着した粘膜から。君の鼓動や息遣いが、直接流れ込んでくる。

いやらしくていやらしくて。恥ずかしくて。

ぐちゃぐちゃになりそうなくらい。

いとおしくて。

「ちょっと。恥ずかしいね。」

「うん。」

なんとなく、笑い合って。

ずっと。こうしていたかったけれど。

ゆっくり。俺は君のなかから、抜け出した。

途端に、ぬくもりが遠のいて。淋しくなる。

そんな俺の気持ちを見透かしたかのように、君は身を起こして抱きついてくる。

華奢で柔らかい手のひらに、熱くなっているところを包まれて。

安心しながら、俺は君の背を撫でた。

指の動きが速くなって。俺と君は、ついばむようなキスを交わして。

舌と舌が触れ合う瞬間。ぴりっと、かすかに電気が走るみたいな刺激に貫かれて。

俺は。君の膝の上に、射精していた。

それでも。俺たちは、離れないままで。

ただ、ずっと。過去も未来も無くなって。

今、この瞬間だけが。永遠に、繰り返せばいいのに。

そんな、子供じみた願いを懐きながら。

抱きしめ合って。止まらない互いの鼓動に、耳を傾けていた。








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