JR@

□ピクトリヱル/アナトミカ 1
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写真は、きらいなんだ。

だって。写真の中の俺は、『偽物』だから。

だから。

Jが想う。『本当』の、俺を描いて。






真っ赤なシーツの上で、膝を折る。全裸の隆一を眺める。

2、3秒観察し。慎重に、鉛筆を走らせる。

キャンバスの上。

まだ形を成していない、人間のからだ。

絵の具の匂いを呼吸しながら、俺は奴を創造する。

明度が高く。アイボリーに近い、肌の色。

ぴくりとも動かずに。

深海のような真っ黒の瞳は。描き手を透かして、じっと世界を凝視している。

そこに、何が映っているのか。俺は知らない。

隆一になることができない、俺には。わからない。

「絵を、描いてほしいんだ。」

依頼は、突然だった。

絵心なんて全く無いってのに。随分と無茶を言う。

当然、即座に断ろうとしたのだが。

「報酬、払うよ。」

暗に、金を出すなんてほのめかすものだから。

癪にさわった。

バカにしてんのか。

金さえちらつかせれば、なんだってするとでも。

ムカついて、つい。

「描いてやるよ・・・ただで。」

売り言葉に、買い言葉ってやつだ。

畜生。

「ありがとう。」

Jくんから、見たままの。

俺を。描いて。

そんなことを口にしながら。初めて俺の部屋を訪れた、隆一が。

なんの前触れも無く、シャツを脱ぎ出したものだから。俺は、大いに焦った。

まさか。対象物が、ヌードだとは。

そういうことは、先に言うべきだろ。

困惑して、反射的に眼を逸らしてしまう。

普通じゃない。こんなの。

なんだって、いきなり。隆一の裸を描かなきゃいけないんだ。

どうかしてる。

一度約束したことを、曲げたくはない。

曲げたくはないが。これは。

「ポーズ、どうする?」

悶々と考え込んでいるうちに。すっかり着ているものを脱いでしまった隆一が、すぐ後ろに立っていた。

思わず、声を上げそうになった。

パンツも履いてねえ。こいつ。

でも。

約束を覆すとして、なんて言えばいいってんだ。

「ヌードは描けない。」?

そんなことを言おうものなら。自分が奴の裸を、いやらしい眼で見ているなんて誤解を招きそうで。

冗談じゃない。

屈辱的だ。

こいつになめられることが。俺は一番、我慢ならないのだ。

「そこ、座れよ。」

平静を装って、振り返り。ベッドの上を指差した。

「こう?」

「もうちょい、膝曲げて。」

適当だ。

絵画にふさわしいポージングなんて。素人の俺に、わかるわけがない。

「言われるだけじゃわかんない。こっち来て、教えて。」

「やだよ。」

「Jくん、照れてるの?」

「はぁ!?」

頭にきて。ずんずんと、隆一に歩み寄る。

乱暴に手足を掴んで。無機物を扱うように、関節を曲げさせる。

なんとなくだが、思い描いていた姿勢になった。

「そのまま、動くな。」

精一杯、偉そうな口調で命じ。キャンバスを前にして、どっかりと座った。

命令通り、微動だにしない隆一は。口元だけで、器用に笑みをつくる。

「とって食ったりしないから。安心して。」

ぶん殴ってやろうかと思った。








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