JR@

□ 葬 春
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その、まばゆさに。泣く。







気が付くと。足元に、君が倒れてた。

知らないうちに、きつく握り締めていた。手のひらを、開閉すれば。

じんわりと。痛い。

のろのろと、半身を起こし。僕を見上げる、Jの左頬は。りんごのように、赤い。

それをきれいだと思う、感情の後を。罪悪感が、追いかけた。

いずれ、そこは。赤黒く、腐敗して。

僕を、苛み続けるに。違いない。

そう。いつもみたいに。

頭の斜め上では。とても冷静な、もう一人の僕がいて。

こんなことは。早く、やめなくちゃ。

そう、叫んでいるのに。

現実の僕は。フローリングの上に跪く、Jの腹を。

思いきり。蹴り上げた。

噎せ返るような、悲鳴が聞こえて。

君は、また。その場に、身を転がす。

唄なんか。

二度と。唄えなくなれば、いい。

そう、思って。

君の喉を。踏み潰す。

ごめんね。

ごめんね。

ごめん。

繰り返し。涙を流す僕を。

君は。とても、かわいそうなものを見る眼差しで。見つめている。

まるで。

僕の方が、殴られているみたいで。

痛い。

「痛いよ。J。」







死にたいなんて、衝動を。

無意識に、よぎらせてしまうことは。前よりずっと、少なくなった。

それでも。

今でも。時々。

囚われるんだ。

きっと、この世界で。

いちばん、必要無いものは。

僕なんじゃ、ないかって。

自分が、本当に。救いようも、ないくらい。

望まれぬ。存在なんじゃ、ないかって。

そんな時。

僕は、ただ。口を閉ざして。

涙を、流す。

どこに、いようと。何を、していようと。止められない。

たとえば。レコーディングの途中でも。

街中の。見知らぬカフェの、テラスでも。

苦しくて。

つらくて。

ただ、ひとりでに。涙が、零れ落ちる。

君の前で。

微笑みひとつ。浮かべることすら、できずに。







突然、涙を溢れさせる。僕に。

君は、とても。動揺する。

決して、同じ絶望を。共有することは、できない。

君は。

笑えるくらい、大慌てで。僕の涙を、拭う。

僕の大嫌いなリズムを奏でる。君の指が、濡れて。

よごれてく。

この涙にも。きっと。そんな価値は、無い。

やがて、君は。万策尽きたかのように、僕を抱きしめる。

少し、早い。君の鼓動を、聴きながら。

僕は。

君なんか。死んじゃえ。

いつだって。そう、願っている。







僕と君が、近付くのには。

あんなにも。長い時間を、要したくせに。

涙が、暴力に形を変えるまでは。

哀しいくらい。あっという間だった。

『その時』 の記憶は。いつも、あいまいで。ぼんやりしていて。

君に。心から、愛されてるような。

そんな、ばかげた。しあわせな、夢の中にいるような。陶酔を呼び起こしてくれる。

僕は、頭がおかしい。

こんな人間になんか。なりたくなかった。

僕が、なりたかったのは。

君だったんだ。

J。







君が、観に来てほしいと言った。いつかのライブ。

きっと、君は。ツアーを通して、確かな自信を身に付けていたんだろう。

「お前に、観てほしい。」

そう、告げられた時。

本当に。嬉しかった。

なのに。

君の唄声を。半ばまで聴くことさえ、叶わず。

僕は。席を立った。

それから。

独りになり。耳を塞ぐ。

僕が望んでいる、答を。

君の音に。見つけることが、できない。

空気を揺らし、皮膚に貼り付く。低いリズムが、もたらすのは。

男に犯されている時の。嘔吐感に、似ている。

僕が、どんなに。君を、愛しても。

僕の身体が。

君を、憎めと。叫んでいるかのように。

「唄なんか。やめる。」

打ち上げから、戻るなり。そう告げた時の。

呆気にとられた。君の顔が、おかしかった。

でも。

「お前が、決めたことなら。」

なんで。

そうじゃない。

そうじゃないんだよ。J。

僕は、ただ。

肯定が、ほしかった。

たった、一言でいい。

やめるな。

そう、言って。

引き留めて、ほしかったんだ。

どうして。わかって、くれないんだろう。

こんなにも。僕は。

君の言葉じゃなきゃ。生きられないのに。

どこまでも、遠すぎた。希望に。

涙を、流した。その夜。

僕は。

初めて。君に、手を上げ。

はじめて。君に、抱かれたのだ。










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