JR@

□ロックンロール/パブロフ
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最近、新しい言葉を覚えた。

それでさ。思ったんだけど。

Jって、ひょっとして。

『つんでれ』 って。やつなんじゃ、ないのかなあ。






とりあえず。Jは、素直じゃないところがある。

僕は、Jに興味があって。僕の方から歩み寄ったのも、事実だけれど。

それは。Jも、僕に興味があって。

そのくせ。まるでそのことが、ものすごく恥ずかしいことであるかのように。必死で、取り繕いながら。

いつだって。僕の姿を眼で追っている、なんてことを。

知ったからに、他ならない。

初めて、それに気付いた時。そんな君の態度を、ものすごくかわいいと思った。なんてのは、内緒の話。

とりあえず。Jは、素直じゃなかったけれど。

とりあえずは、僕も。えさをくれる人には、無意識にしっぽを振ってしまう (杉ちゃん曰く、危険すぎる)。腹ぺこかつ、淋しがりやの犬、だったから。

もっと。君のことを知りたいと、思った。

頭を撫でてほしいって。思った。

だから、わざと。Jに貸しをつくってあげて。

貸し、と言っても。Jが唄うことについて、行き詰まっていた時に。

ほんのちょっと、相談に乗ってあげた。

それだけ、なんだけど。

計画は。想定以上に、うまくいったみたいで。

僕の助言に、活路を見出したJの。ツアーは、大成功を収めて。

「メシでも、食いに行かねえ?」

おごるから、と。

上機嫌で申し出てきた。君の笑顔は、とても無邪気で。

その輝きに、嫉妬した。

だから。

すかさず、言ってやったんだ。

「Jの手料理、食べてみたい。」

自分に、できる限りの。

僕のことを、好きでいてくれる。ファンの人達にも、見せたことないくらいの。

最上級の、笑顔をつくって。

「もちろん。Jの家でね。」

そう。付け加えた。






僕の要求は、きっと。Jにとって、意表を突くものであったことには、違いない。

でも、Jは。断るようなことは、しなかった。

当たり前だ。

君だって、僕のことを。

もっともっと、知りたいと願ってた。はずだから。

実際、君は。かなり、嬉しかったんだと思う。

はりきって、こしらえてくれた。Jの手料理は。

普段の外見や、言動から。相当おおざっぱで、大味なんじゃないかって。偏見にとらわれてたけど。

シンプルなお皿によそわれた、ビーフシチューは。君のキャラには到底似合わない、繊細な薄味で。

野菜は、少し大きめに切ってあったけど。すぐにそれも、煮崩れしないようにっていう配慮だなんてことがわかって。

僕の味覚に、1ミリも違わず。ぴったりと馴染む、心地良さだった。

「すごい、おいしい。」

自然と、溢れ出た。心からの微笑みを、返したら。Jはますます嬉しそうに、料理に関する豆知識を語り始める。

あ、そうなんだ。

Jって。褒められて伸びるタイプ、なんだなあ。

これは、戦略の参考にすべき。非常に有利な情報だ。

頭の中で。すかさず、メモをとりながら。

うんうんと、頷いて。下ごしらえが、どうの。このルーは、オリジナルブレンドだの。といった、うんちくに。耳を傾ける。

「また、来ても。いい?」

帰り際に、尋ねた時。Jは、少しだけ。戸惑うような、顔をした。

「別に、構わねえけど。」

心なしか。

ものすごく。照れてるように、見える。

「ひとりだと、余っちまうし。」

「大好きだよ。」

「へ?」

「Jの、ビーフシチュー。」

そう。

これは、本心。

Jのつくる手料理が、僕は大好きだ。

その日を境に、始まった。

君との、この関係を。僕は心の中だけで、こっそりこう呼ぶことにした。

ご飯ともだち。略して、『メシトモ』 。






Jとメシトモになって、もう随分経つわけだけど。

さすがに、そろそろ。マンネリ化を避けられない感じだ。

楽しくない、わけじゃない。

でも。

君のことを、よく知るようになって。

なんとなく。僕らの望んでいることが。

そっくり、入れ替わってしまってもわからないくらい。似ていること。

そんなことに、ふと気付いてしまった。ある日。

僕と、君は。はじめての、キスをした。

一度だけ。

いつものように、夕飯を食べた後。Jが剥いてくれた、デザートのりんごを食べて。

しつこくねだって、無理矢理つくらせた。赤い耳のりんごうさぎが、かわいくて。

嫌がるJの口に、うさぎを押し込みながら。死ぬほど笑った。

そう、さっきまでは。確かに、笑ってた。

そのはずなのに。

からかいすぎた、僕を。怒ったふりをした、君が。捕まえて。

じゃれ合うように。もつれ合うようにして、倒れ込んだ。ソファの上で。

いつの間にか。もう、笑ってはいなかった。

まっすぐに、焼かれてしまいそうな。君の視線と。

ふいに、近付いた。唇の距離。

ほんの一瞬、触れただけで。

慌てて、身体を引いた。気まずさ。

そんな。笑えるくらい、ささやかな証拠が。

僕たちが。互いに望んでいる関係を、決定的なものにしてしまった。

そして。あれ以来。

Jは、僕に。何も、言ってくれない。

それって、結構。ずるいと思う。

始まりは、僕からだった。

今度は、君の方から。もう少し、手を伸ばしてくれてもいいのに。

ご飯の話じゃなくて。

もう少し。がっついてくれても、いいのに。








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